ビッグ・タイム ☆☆☆

(ビッグ・タイム / フリッツ・ライバー / サンリオSF文庫 1978)

サンリオSF文庫の、記念すべき第1回配本です(ナンバーが「1-A」)。当時、ライバーは、長篇は「闇よ、つどえ」と「放浪惑星」しか訳出されていなかったものの、短篇はSFマガジンなどにかなり訳出されており、本作は「放浪惑星」以前にヒューゴー賞を受賞していただけあって、編集部も力を入れていたのでしょう。たしかに"改良戦争"ものと呼ばれる(らしい)シリーズに連なる長篇で、世界設定などはヴォークトの「イシャーの武器店」や「非A」シリーズなどを彷彿とさせるワイドスクリーン・バロックです。ただし、後で記すような問題点もあったのか、当時もあまり話題にはならなかった気がします。

宇宙の別の時間と空間――ビッグ・タイムと呼ばれる次元では、過去から未来まで延々と続く(時間も一方向にだけ流れているわけではありません)改良戦争(チェンジ・ウォー)なる戦争が行われていました。スネーク軍とスパイダー軍と呼ばれる勢力の正体や意図も明らかになっておらず、通常世界の時間線上で不慮の死を迎えかけた者(人類に限らず)は徴兵されて、あるいは戦士として前線で戦い、あるいは“場所(プレイス)”と呼ばれる一時的な安息所で肉体的・精神的に傷ついた戦士を癒すエンターテイナー(看護師、慰安婦、精神分析医、賭博場や酒場のオーナーなどを兼ねています)として、終わりのない戦争に関わっています。彼らはデーモンでありゾンビですが、幽霊よりも存在感はあります(幽霊は“場所”に貯蔵されており、必要に応じて活性化され、エンターテイナーを補佐するようです)。
語り手のグレタは20世紀のシカゴ生まれですが、29歳のとき犯罪に巻き込まれて死を迎える直前、徴兵されてエンターテイナーとなり、同僚のドック、シド、ボー(以上、人間の男性)、ベテランのモードと新入りのリリー(以上、人間の女性)と共に担当の“場所”で任務に就いています。この日、戦いに疲れてやって来たのは、元ナチの士官エリック、イギリス人の詩人ブルース、古代ローマ兵士マークでした(エリック以外は、この“場所”に来るのは初めて)。来て早々、ブルースはエリックとひと悶着起こしますが、リリーと気が合ったようで、やがて二人の世界(笑)に入ってしまいます。
9人になった一同はパーティーを楽しみますが、その途中、“場所”のすべてを制御しているメインテナーが緊急信号を発し、続いてET(つまり人類以外の種族)2名を含む3人の兵士が“改良風”が吹き込むドアから飛び込んできます。女戦士カビー、遠未来の月を出自とする触角生物イーリイ(カビーとイーリイは、過去にもこの“場所”で過ごしています)、はるかな過去の金星出身の半人半獣(ケンタウロスのイメージ)セブンシーズ(この“場所”には初見参)でした。古代ギリシャのクレタの戦いに参加していた3人は、敵スネーク軍を殲滅するため小型原爆を仕掛けようとしていましたが失敗し、時限装置をセットされた原爆ごと“場所”に入り込んでしまったのでした。
5時間後に迫る原爆の爆発を止めようと、一同は知恵を絞りますが、やがてメインテナーが消失してしまい、“場所”そのものが内転してしまった(ビッグ・タイムからも切り離されてしまった、ということのようです)ことがわかります。ここに集まった12人の中にスネーク軍の工作員かテロリストがいるのではないかという疑いも生まれ、爆発装置を解除しようとするブルース一派と、“場所”を脱出してビッグ・タイムのスパイダー軍に助けを求めようという一派に分かれ、対立も激しくなります。やがて、誰かがメインテナーを隠したのではないかという疑惑が事実となり、犯人探しと隠し場所の捜索が始まります。グレタは、他の面々が気付いていない些細な点に着目し、メインテナーの隠し場所を突き止めますが――。

世界設定が複雑で登場人物が入り混じっているため、ただでもストーリーを追うのに苦労するのですが、さらに翻訳があまりお上手でない(翻訳者自身が半分匙を投げており、「これが私の最初で最後のSF翻訳になるだろう」と書いています(^^;)ため、ますますわかりにくくなっています。解説を読めば助けになるかと思えば、解説者は自己中なライバー論を偉そうにまくしたてているだけで、本作を読み解く役にはあまり立ちません(ちなみに、この解説者は、あの「変容風の吹くとき」の翻訳者その人です(^^;)。

オススメ度:☆☆☆


ビッグ・タイム (サンリオSF文庫) - フリッツ・ライバー
ビッグ・タイム (サンリオSF文庫) - フリッツ・ライバー

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この記事へのコメント

X^2
2020年11月15日 00:03
> ちなみに、この解説者は、あの「変容風の吹くとき」の翻訳者その人です

”改良風"のところで、あれもしかして、と思って最後まで読んだら「やっぱり」となったのですが、考えてみると翻訳者は別の方ですよね。

> “場所”そのものが内転してしまった

この訳語もかなり違和感がありますし、もしかすると翻訳者は解説者に妙なアドバイスを受けてそれを実行してしまったのでしょうか?
〇に
2020年11月15日 21:26
メッセージ、ありがとうございます(^^

「改良風」には「チェンジウィンド」(!)とルビが振られており、原文ではまさにchange windと記載されていますね。原書の発表年代はかけ離れていますから、原書同士の直接の関連性はないようですが、Nさんが「変容風の吹くとき」を訳す際には、本書のことが念頭にあったのではないかと思います。