処刑列車 ☆☆

(処刑列車 / 大石 圭 / 角川ホラー文庫 2005)

同じ角川ホラー文庫から、似たようなタイトルの「死霊列車」という作品も出ていますが(そのうち登場)、作者も違いますし(あちらは北上秋彦さん)、まったくの別物です。

東海道線の東京行き「快速アクティー号」が乗っ取られ、平塚駅と茅ヶ崎駅の間、相模川にかかる馬入川橋梁上で停車します。ラッシュ時を過ぎていたために、15両編成の列車の乗客の数は800人ほどでしたが、運転士、車掌ら乗務員は射殺され、乗客は全員、4両目と5両目、11両目と12両目に集められます。犯人グループ(人数も素性も不明です)は自分たちを『彼ら』と呼び、ただ「近づいたら人質を殺す」と語るだけ(実際に何人も殺されます)で、JRや警察に対して特に具体的な要求をするわけでもありません。しかも、犯人は指定した車両に集められた人質の中にも何人も潜んでおり(老人や中年女性、十代の高校生まで様々です)、不意に拳銃を取り出して、手近な相手を射殺する始末。隙を見て脱出を試みた乗客らも、鉄橋上で背後から撃たれて命を失います。鉄橋の両端には、警察車両や報道陣が集結し、マスコミのヘリコプターが飛び交い、その情景はリアルタイムで全国にテレビ中継されます。そして、警察にもマスコミにも、乗っ取り犯人を名乗る人物からの要求や、一般市民による情報提供が次々と寄せられます。要求のほとんどは騒ぎに便乗した愉快犯と思われましたし、寄せられる情報も悪戯か、善意によるものであっても全くの間違いであるケースがほとんどですが、警察は確認を取らざるを得ず、リソースは浪費されていきます。
一方、ワイドショーなどで放送される事件の内容を聞いて、影響を受ける人々もいました。巧妙な結婚詐欺に騙されてすべてを失って以来、引きこもり生活を続けていた黒川美奈子は、ネットで真犯人である『彼ら』のサイトにアクセスしたことがあり、『彼ら』の活動に触発されて、自分から何もかも奪い去った犯人ウエダ・ツトムへの復讐を実行に移します。スーパーの駐車場の整理係として夢も希望もない生活を続けてきた初老の三田村則夫は、ついに一線を越えて暴力衝動に身を任せると、何人もの人間を殺傷しながら茅ケ崎を目指し、アクティー号を占拠している『彼ら』に合流しようとします。
また、在日大韓民国大使は、人質になっている同胞(北も南も関係なく)を解放させるために自ら人質を買って出ます。それに触発されたのか、『彼ら』の側からも、国会議員が身代わりになれば議員ひとりにつき10人の乗客を解放する(ただし議員は射殺されることになります)という条件が出されます。野党の女性議員が志願し(彼女には、命を捨ててもいい理由がありました)、『彼ら』は人質に対し、解放される10人を自分たちで選べと指示します――その結果は、もちろん悲惨なことになります。
やがて、テレビカメラに映し出された犯人を知っているという情報がちらほらと警察に届き、捜査員が裏付け調査に赴きます。そのうち犯人一味と確認された新聞配達青年と元牧師の老人の部屋のパソコンから、「5-3≠2」という奇妙な数式が見つかります。そして、警察に出頭した多岐川春雄と千恵子の夫妻から、数式の意味が明らかにされます。犯人たちが『彼ら』という三人称を使っている理由も――。
これ以外にも、事件に巻き込まれた人々の悪意やエゴや善意、葛藤などがいやというほど描かれ、センシティヴな心の持ち主には耐え切れない描写が延々と繰り返されます。こういった悪意や暴力に対して(二つの意味で)影響を受けやすい人にはお勧めできません(その意味で、☆を減らしています)。

なぜ一般市民だった犯人たちが、これほどたくさんの銃器を手に入れることができたのかなど、ツッコミどころもかなりあるのですが、闇サイトの存在、ネットによる匿名の誹謗中傷のすさまじさなど、現在ますます存在感を高めている人間の「悪意」を体現した深刻な事象を予言した作品とも言えるでしょう。

オススメ度:☆☆

処刑列車 (角川文庫) - 大石 圭
処刑列車 (角川文庫) - 大石 圭

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