唾棄すべき男 ☆☆☆☆

(唾棄すべき男 / マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー / 角川文庫 1982)

『マルティン・ベック・シリーズ』の第7作です。

ストックホルム警察のニーマン主任警部は、持病(明記されていませんが、消化器系の腫瘍らしい)が悪化してマウント・サバス病院に入院していましたが、深夜、病室に侵入した何者かに惨殺されます。凶器は銃剣で、顔面と喉を切り裂かれ、腹部をめった刺しにされるという凄惨な現場が残されていました。当直していた気の利かない(笑)エイナール・ルン刑事が現場に駆け付け、すぐに上司のマルティン・ベックを呼び出します。いつの間にか(笑)ベックは妻と別居しており(離婚まで進んでいるかは定かではありません)、娘のイングリッドと食事を済ませて帰宅したばかりでしたが、すぐに出張ってきます(自分にとってベックのイメージは、「笑う警官」を映画化した「マシンガン・パニック」でベック役を演じたウォルター・マッソーなのですが、ますます似てきたように思います(^^;)。
現場を見れば明らかなように、犯人は間違いなくニーマンに強い恨みを抱いているようでした。ニーマンの死を告げに自宅を訪れたベックとルンは、夫人のアンナと息子ステファンに、ニーマンに敵はいなかったか問いかけますが、ニーマンは仕事を家庭に持ち込まない主義で、警察関係の話題を出すことはめったになく、友人もおらず、同僚の警官たちが訪ねてくることもほぼ皆無だったという答えが返ってきます。確かに家庭内のニーマンは、非の打ちどころのない夫であり父親でしたが、警察内部での彼の評判は、それとは違っていました。ベックが聞き込みを進めると、ある種の警官たちの間ではニーマンは頼りになる上官だと高い評価を受けていましたが、同時にニーマンの周囲には数多くのスキャンダルが渦を巻いていました。軍隊時代にニーマンの部下だったコルベリに言わせれば、ニーマンは筋金入りのサディストで、自分より弱いものを痛めつけ、恥辱を味わわせる名人でした。つまり、ニーマンを支持する警官たちは彼の同類で、容疑者たちを日常的に痛めつける行動をとっており、そのような行為のほとんどは不問に付され、被害者は泣き寝入りを余儀なくされています。つまり、ニーマンはコルベリが言う「唾棄すべき男」だったわけです。警察内部に告発してももみ消されてしまうため、一部の被害者は護民官に訴えを出しますが、それらも証拠不十分として却下されるのが日常茶飯事でした。ベックに指示され、ルンは護民官のオフィスへ赴いて、ニーマンの関する訴状を片端からチェックして、訴え出た人々の身元をリストアップしていきます。つまり、ニーマンを告発した人間は、当然ながらニーマンに恨みを抱いているわけで、容疑者予備軍といえるわけです。
再びアンナ夫人を訪れたベックは、ニーマンが殺された前夜、同僚の警官からニーマンの入院先を尋ねる電話があったことを聞き出します。その警官の名はパルモン・ハラルド・ハラト――ニーマンが最も信頼していた部下で、ニーマンのことを神のように尊敬している男でした。しかし、ニーマンの入院先を知っている人間はごく限られていたことから、ハラトも容疑者候補と考えられました。また、訴状の中から、ベックは元警官のオーケ・エリクソンの名もピックアップします。エリクソンの妻マリアは糖尿病で、低血糖の発作で街路に倒れているところを麻薬中毒者と間違えられて留置場に放置され、翌朝死んでいるのが見つかります。その晩の当直で彼女の死に直接の責任があるのは、ニーマン主任警部でした。エリクソンはあらゆるルートと手段を使って訴えますが、ことごとく却下され、ついに精神的に追い詰められて警察も辞めざるを得ませんでした。抜群の記憶力を誇るメランデルは、ベックの問いにエリクソンがらみのエピソードをすらすらと語ります。射撃の名手だったエリクソンは、その後は残された娘を育てながら職を転々としたようでしたが、現在は行方不明になっています。
コルベリとグンヴァルド・ラーソンは、再び現場検証に訪れていました。この二人はタイプが全く異なっており(知的な穏健派のコルベリと、強面で行動派のラーソン)、水と油のように相性が悪いのですが、今回はたまたま一緒になってしまっています。ニーマンの主治医の事情聴取を終えて使途へ出ると、警官隊が野次馬の集団を暴力的に排除しようとしていました。そこに銃声が鳴り響き、警官が倒れます。何者かが高層アパートの最上階からライフルで正確に射撃したのです。しかも、無差別の乱射ではなく、狙われたのは警官だけでした。退避したラーソンとコルベリは、医師の白衣をまとって変装し、アパートに入り込みます。しかし、上階への扉はがっちりと内側から施錠されていました。その頃エリクソンの両親を訪ねていたベックは、エリクソンの現在の住所を聞き出しますが、それは件のアパートの最上階でした・・・。
マルム署長の作戦でヘリコプターで接近した狙撃手は逆に射殺され、事態は膠着します。ベックは単身、ベランダを伝って屋上へ乗り込み、決死の覚悟で説得しようとする一方、ラーソンは志願者2名を連れて強行突入を図ります。

他のシリーズ作品と比べて、プロットがストレートで、社会派としての説得力もあり、一気に読まされてしまいます。

オススメ度:☆☆☆☆


唾棄すべき男 (角川文庫 赤 シ 3-7) - マイ・シューヴァル, ペール・ヴァールー, 高見 浩
唾棄すべき男 (角川文庫 赤 シ 3-7) - マイ・シューヴァル, ペール・ヴァールー, 高見 浩

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