鷲 ☆☆☆☆

(鷲 / 岡本 綺堂 / 光文社文庫 1990)

光文社文庫版岡本綺堂怪談集(旧版)の5冊目です。
ちくま文庫版「岡本綺堂集」との重複が3篇ありますが、江戸時代から昭和初期までを舞台にした怪奇譚(発表されたのは大正後半~昭和初期)が、10篇収められています。

「鷲」:江戸将軍家の狩場を荒らす札付きの鷲"羽田の尾白"を撃ち落とすことを命じられた鉄砲方の与力、和田弥太郎は、仕損じたら切腹も辞さない構えで事に臨んでいました。弥太郎の家族や中間、主を気遣う女中のお島の家族らは、神頼みまでしています。鷲の出現を羽田の本陣で待ち受ける弥太郎に同道した息子・又次郎は、お島の妹・お蝶の訪問を受け、気がふれたようになったお蝶から「あなたのお父様はわたしの仇」という言葉を聞かされます。不穏な空気が漂う中、弥太郎は、現れた"羽田の尾白"に発砲しますが、そのうちの一弾が又次郎に命中してしまいます。後に明かされた、お蝶の出生の秘密とは――。

「兜」:邦原家には、文久年間から奇妙な由来を持つ兜が伝わっていました。その兜は、辻斬りに遭った商人から買い取ったものでしたが、失くなってはひょんなきっかけで戻ってくることを繰り返し、そのような歴史が大正の時代まで続いています。今回も、関東大震災に伴う火災で焼け出されたにもかかわらず、見知らぬ女性が避難先に兜を届けてくれました。

「鰻に呪われた男」:田宮夫人は、女学校を出た19歳の時に訪れた温泉場Uで、旧知の松島青年と一緒に静養していた青年と知り合い、結婚することになります。しかし、夫人は、その青年が川で釣り上げた鰻を生で頭から貪り食う姿を目撃していました。新婚旅行中、何気なくそのことを口にすると、青ざめた夫はそのまま宿を出て失踪してしまいます。その後、「自分は鰻に呪われている」という手紙が届きます。

「怪獣」:害虫調査のため九州のS旅館に投宿していた藤木博士は、宿の主人一家は好人物ぞろいなのにも関わらず、22歳と19歳の姉妹のみが好色で淫乱な態度をあからさまにしていることに驚き、不審を抱きます。清廉だった姉妹が変わってしまったのは、数年前、嵐で被害を受けた母屋を普請して以来だということでした。琉球か朝鮮出身だという大工見習が姉妹を口説いて袖にされ、親方から厳しく責められたといいます。藤木博士が調べたところ、姉妹の部屋の天井裏から、無気味な怪物を刻んだ木彫りの像が見つかります。

「深見夫人の死」:有数の実業家、深見家の夫人多代子が、熱海の海岸で投身自殺しました。少女時代から多代子を知っている商社マンの西島の話によれば、多代子の自殺は蛇の呪いだといいます。瀬戸内海沿岸の出身地に端を発する呪いは、上京後も、多代子と兄・透の兄妹の双方にかかっているようでした。

「雪女」:某商社の満州支店に赴任していた堀部は、真冬の出張の際、雪に降り込められて、とある村の農家に宿を借ります。主の老人は、孫娘が雪女にさらわれるのではないかと怯えていました。堀部は一笑に付しますが、夜中になると――。

「マレー俳優の死」:シンガポール駐在の貿易会社社員のNは、地元の劇団の若手俳優アンが失踪したという話を聞きます。スペイン系の高級娼婦に入れあげて借金まみれになったアンは、原住民の王が莫大な財宝を隠したという墓所(当然、呪われています)に足を踏み入れ、それっきり戻ってきませんでした。

「麻畑の一夜」:フィリピンの小島に、日本人の経営する麻の農場がありましたが、たびたび農夫が行方不明になる事件が発生していました。たまたま視察中に島を訪れた高谷は、監督の丸山に頼まれて、丸山の助手の勇造とともに一夜を明かすことになります。ドイルの「樽工場の怪」を思わせる状況ですが(実際、作中で高谷が「ドイルの小説みたいだ」と述懐します(^^;)、夜中にスコールの中、狂乱した勇造が濁流に身を投げてしまいます。(さすがにドイルと同じオチではないですね)

「経帷子の秘密」:江戸末期、質屋の近江屋の女将と娘が、横浜見物に出かけた帰り、日暮れの街道を荷物を背負って急ぎ足の老婆に出会います。包みを急いで鮫洲へ届けなければいけない、という老婆に同情した娘・お妻は、自分の駕籠に乗るよう勧めます。目的地に着いた老婆は、喜んで姿を消しますが、肝心の包みを忘れていました。老婆は見つからず、包みを開けてみると、中身は白い経帷子でした。その後、お妻に縁談が持ち込まれますが、相手の大店、井戸屋には老婆の呪いにより実子が育たないといういわくがありました。

「くろん坊」:タイトルの「くろん坊」は、黒人の蔑称ではなく、「山に棲む野人」の俗称です。幕府の隠密が街道を外れた山道で小屋を見つけ、一夜の宿を頼みます。小屋の主は若い僧で、あることが成就するまでここを動くわけにはいかない、と謎の言葉を残します。夜中に不気味な笑い声を聞いた隠密が、翌朝、ふもとの村で尋ねると、次のような話を聞かされます。昔、小屋に住んでいた杣人の源兵衛は、山から下りてくる野人(黒ん坊)を手なずけて、下働きをさせていましたが、つい口が滑って「しっかり働けば娘のお杉を嫁にやる」と言ってしまいます。その後、お杉は縁談を得て山を下りることになりますが、黒ん坊が現れて、お杉をさらおうとします。黒ん坊は源兵衛に突き殺され、死体は谷底へ落されますが、途中の枝に引っかかってしまいます。

オススメ度:☆☆☆☆


鷲 新装版 (光文社文庫) - 岡本 綺堂
鷲 新装版 (光文社文庫) - 岡本 綺堂

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント