鮎川哲也名作選 ☆☆☆

(鮎川哲也名作選 / 鮎川哲也 / 河出文庫 2002)

河出文庫版『本格ミステリコレクション』の第4巻です。このシリーズの他の巻は比較的マイナーな(失礼)作家さんなのに対し、今回の鮎川さんはビッグネーム。そのため、他の巻とは異なる編集方針を取っているそうです。鮎川さんの「傑作選」などは、これまで数多く出版されてきており、それらと内容が重複するのでは意味がない――ということで、本書には、作者のごく初期の作品(本名の「中川透」など、「鮎川哲也」以外のペンネームで発表されたもの)や、本格ミステリではない怪奇幻想味の濃いものやナンセンス小説、エロチック小説等が、全部で16作品、収録されています。本人の「作品ノート」によれば、「若書きで、恥ずかしくて人に見せられない」(でも、「こんな作品を書いたやつでもミステリ作家になれるんだ、という意味では若い人の励みになるだろう」とのこと)ものも入っているそうで、なかなか興味深いです(^^

「月魄」:満州の哈爾浜(ハルビン)を舞台にした純粋怪奇小説。語り手の恋人マーリアは、ある月夜に忽然と現れた謎の画家のモデルになって以降、急速に衰弱してついに命を落としてしまいます。その画家の正体は――。

「蛇と猪」:田舎の村の農家で、主人が撲殺されます。地元の駐在は長男が犯人だとにらみ、アリバイを崩して悦に入っていますが、疎開中の青年は、別の人物を真犯人と指摘し、そのアリバイトリックと意外な動機を暴きます。

「地虫」:片想いの恋に破れて自殺を考えていた羅馬夫のもとに、3日おきに夜の数時間だけ訪れる想い人・ソヨ子は、本人でなかったばかりか、人間ですらありませんでした。切ないロマンチック・ファンタジー。

「雪姫」:ダンスサークルの集会にたびたび現れ、雪姫と呼ばれるようになった美女は、なぜか醜男で女性に人気のない後藤をパートナーにするのでした。しかし、クリスマスの晩に火事が起き、彼女の正体が判明します。

「影法師」:語り手は、同じ推理作家クラブのメンバーである薔薇小路棘麿から、過去に体験したドッペルゲンガー現象について聞かされます。ハルビン近郊の玉泉に下宿していた棘麿は、同宿の白系ロシア人青年ステパーンと、美貌のロシア娘オクチャーブリャをめぐって恋の鞘当てを演じることになりますが――。

「山荘の一夜」:ゴシップ雑誌の編集長の企画で、おちぶれた作家と俳優が山荘にまね稀、自分を踏み台にしてのし上がっていったスター女優との対談に臨むことになります。ところが、拳銃を持った脱獄囚が山荘に押し入って――。

「ダイヤルMを廻せ」;ヒッチコックの同名の映画を、ダイジェストでノヴェライズしたもの。

「朝めしご用心」:総理大臣をはじめ政財界の大物が、次々に変死します。死者の共通点は、ハゲで総入れ歯だということとと、同じ若妻と結婚して高額の生命保険をかけた直後に死んでいることでした。若妻・田鶴子が殺したことは間違いありませんが、犯行の手段がわからず、安蒜探偵は苦悶します。当時の分類で言えば「ナンセンス・ミステリ」ですが、いわゆる「バカミス」のはしりでしょう(^^

「アトランタ姫」:結婚相手は処女でなければいけない、とうそぶく明と婚約したマリ(もちろん正真正銘のヴァージン)は、夜道で暴漢に襲われ、純潔を失ってしまいます。それを聞いた明の反応は、意外なものでした。

「甌」:看護師のミチエは、先輩看護師や医師から、彼女の恋人・良吉には一物が二本あると聞かされます。悩んだミチエが出した結論は、自分も受け入れる場所を二つ持つように整形すればいい、というものでしたが――。

「絵のない絵本」:売れない探偵作家が、月が語る犯罪実話を小説化するという設定。極悪人の恵良三平は、結婚するのに邪魔な3人の愛人を次々に殺していきますが、“人の言葉をしゃべる鶏”から手ひどいしっぺ返しを受けます。「メルヘン・ミステリー傑作選」にも収録されています。

「他殺にしてくれ」:大学教授の三輪進吾は、妻の蘭子と密通していた助手を射殺して自殺します。語り手の私立探偵は、蘭子の依頼を受け、三輪は自殺ではなく殺されたことを立証しなければならなくなります。自殺では生命保険が下りないためなので、犯人を見つける必要はなく、警察でも自殺と断定した事件に、他殺の可能性があることを示せばいいわけですが――。調べているうちに、語り手は本当に殺人だったことを突き止め、犯人も判明します。

「怪虫」:「モスラ」か「ウルトラQ」もかくやという怪獣小説。UFOからの放射能(?)によって巨大化した芋虫が奥多摩に出現し(その数18匹)、東京へ進んでいきます。雑食性らしく、農作物や動物、人間まで貪り食いながら――。博物館の研究員・浅川秋夫とフリーカメラマンの沢田マリは、大芋虫を退治する手段を求めて、取材を続けます。

「冷凍人間」:こちらは「怪奇大作戦」風味の怪奇ミステリです。良心の呵責に耐えかねて密輸グループから抜けようとした綾部一郎ですが、そのことがばれ、冷凍庫に閉じ込められてしまいます。しかし、一味が翌朝、冷凍庫を開けてみると、綾部の姿は消えていました。以降、死から蘇って「冷凍人間」になったと思われる怪人物が出没し、一味はひとりひとり殺されていきます。綾部の友人だった沢田マリは、相方の浅川秋夫と事件を追います。

「マガーロフ氏の日記」:「人外魔境」や「人見十吉」ものを思わせる秘境冒険ミステリです。語り手が古道具屋で買ったロシア製のオルゴールの内部には、マガーロフというロシア人の日記の断片が隠されていました。その内容とは――。第一次世界大戦前、シベリアの原野で氷漬けのマンモスが発見されたという報せを受けて、若き研究者マガーロフと間カールは、現地へ赴きます。宿舎としたスマロードフ家では、美貌の姉妹パラスケーワとカテリーナがおり、研究者は二人ともペテルブルグに妻がいるにもかかわらず(しかも禁欲生活が続いていたため)、煩悩を持て余すことになってしまいます。やがて、マカールとパラスケーワとの間に何かあった(笑)ようでしたが、以降、マカールは人が変わったように落ち込んでしまい、病気のようになってしまいます。マガーロフは固有の風土病に冒されたのだと考えましたが――。日記を読んだ語り手は、別の真相にたどり着きます。

「ジュピター殺人事件」:「東西対抗連作長篇探偵小説」という企画の東軍の作品で、藤 雪夫、作者、狩 久の3人による連作ミステリです。美男子の大学生、桜井が、自室で殺されているのが発見されます。顔を潰され、顔の上にはジュピター(ギリシャ神話のゼウス)の石膏製の顔が載せられていました。田所警部と部下の田中刑事による捜査の結果、桜井に恨みを持つ何人かの容疑者が浮かんできます。万年筆会社のセールスマン・島田や、電気商会に勤める橋本は、化粧品会社の美人OL・森川あけ美をめぐって桜井と対立していました。しかも島田は、出張先から会社に戻らず、消息不明になっています。一方、桜井が殺された時間の橋本のアリバイが気になった田所警部は、時計を使ったトリックを突き止めるとともに、桜井が麻薬を使って何人もの女性を自由にしており、あけ美も被害者の一人だったことが判明します。そうこうしているうちに、橋本がアパートで殺され、現場にはジュピターの顔が残されていました。そして、あけ美が何者かに連れ出されて失踪してしまいます。

オススメ度:☆☆☆


鮎川哲也名作選―冷凍人間 (河出文庫―本格ミステリコレクション) - 鮎川 哲也
鮎川哲也名作選―冷凍人間 (河出文庫―本格ミステリコレクション) - 鮎川 哲也

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