我が月は緑(上・下) ☆☆☆☆

(我が月は緑 上・下 / 今日泊 亜蘭 / ハヤカワ文庫JA 1995)

文庫で上下巻合わせて1200ページを超える謀略・冒険SFで、「光の塔」の続編です。とはいえ、ハヤカワ文庫版の「光の塔」を読んだのは学生時代で、登場人物からストーリーから、すっかり忘れ去っていました(実際に本作が発表されたのも、「光の塔」から30年後だそうです)。必要な箇所では前作の説明がありますので、ほとんど無問題ですが、今回の登場人物同士の確執など「光の塔」の流れを汲んでいる場面もありますので、読んで(覚えて(^^;)いるに越したことはありません。「光の塔」のハヤカワ版は絶版ですが(つーか、本書自体が絶版なんですが(^^;)、ちくま文庫から再刊されていますので、そちらが入手しやすいと思います。

主人公の水原レイ(なんか、セーラーマーキュリーとセーラーマーズが合体したような名前ですが、本人はバンカラ青年です)は、亡父が「光の塔」で大活躍した人物だったため、会う人ごとに「あの英雄レリオの息子ですか」と言われることに閉口していました。そのせいでぐれたレイは、街の不良として警察の御厄介になること数知れず――口うるさい祖父や、祖母や母に心配ばかりかけています。ついには家を飛び出してしまったレイですが、なじみとなった地区警察の刑事部長(レイの腕っぷしと度胸に一目置いています)に勧められて、国際警察に志願し、国際刑事探偵として採用されることとなります。
実はその頃、地球政府は「脳髄共和国」(略称・脳共)なる組織に脅迫を受けていました。もともと、平和主義の科学者たちが国境を越えて連帯したAVL(アヴィラーグ:運動を主宰した3人の科学者アサノ、ヴィハルヤ、ラグランヂュの頭文字を組み合わせたもの)は穏健な団体でしたが、結成から30年を経て、急に過激な主張をするようになり、「脳髄共和国」と名を変え、総帥カトーの名で世界政府に対して、核を含むすべての軍備を放棄するよう通告してきたのです。期限は1年で、期限までに実行されない場合は、地球を破壊するという脅迫を含んでいました。国際警察を中心とする世界各国は脳共の本拠地を捜索した結果、消去法から月面のどこかだと判断しますが、それ以上の詳細はわかっていません。しかも、地球政府が月面の一部を核廃棄物の処分場(要するに核のゴミ捨て場)にしていることから、月に住む人々は多くが地球を快く思っておらず、その分、脳共に好意的なため、捜査は難航を極めています。期限まで残り半年を切り、国際警察は刑事探偵員を何人も月面へ送り込んでおり、水原レイもその一員として派遣されることになりました。
新聞記者・中山弓之助という偽の身分で、首都ルナシゥタスへ到着した水原(ややこしいので今後も水原で通します)ですが、早速、脳共のものと思われる破壊工作で殺されそうになります(たまたま乗り合わせた月面暗黒街の顔役ミロナスと座席券を交換していたため助かりますが、ミロナス一家のギャングたちから「ドンの仇」として付け狙われるようになってしまいます)。実際、月警察の署長からは、これまで月面に捜査にやって来た国際警察の探偵17人のうち、12人は奇怪な状況で殺害され(「怪奇大作戦」に、似たような事件を扱ったエピソードがありました)、他の5人も消息を絶っていると聞かされます。そのため、署長のはからいで、水原には常に月警察の精鋭3人からなる護衛が付くことになりますが、自由に行動したい水原には痛しかゆしでした。情報収集に街へ出た水原は、月へ来る宇宙船で一緒だった本物の新聞記者・乃田光二郎(本書の解説をしている野田昌宏宇宙軍大元帥の本名のもじりですね(^^;)と話し込みますが、追って来た護衛の一人、日本人の岡本が割り込んできます。そして、岡本と一緒にホテルへ向かおうとしたとき、ミロナス一家のギャングたちに襲われて拉致されてしまいます。
アジトに監禁された水原ですが、一家の客分格ジドマークの手引きで脱出に成功しますが、ジドマークには別の目論見がありました。なんとジドマークは、「光の塔」事件で父親を水原の父レリオに殺されており、仇を討とうとしていたのです。ふたりは空外服(ドームから出て月面で活動する際に身に着ける簡易宇宙服)を着て月面に出て、熱戦銃と短剣を得物として決闘することとなります。惑星ヘルゲイトのローダンとアトランのごとく、知力と体力の限りを尽くした戦いはかろうじて水原の勝利(相手をギブアップさせただけで、殺したわけではありません)に終わりますが、水原も伝説の怪物「月鬼」に出会って気を失ってしまいます。そのまま月面に放置されていれば、ふたりとも命を失ったところでしたが、なんとふたりを助けたのは「脳髄共和国」のメンバーでした。
意識を取り戻した水原は(ジドマークは重傷で意識不明のまま)、自分たちを救助したのがユーディット(時を越えちゃった錬金術士ではない)とニルスのラルソン姉弟でした。ふたりは脳共に所属する科学者で、ユーディットは地質学者、ニルスは医師です。姉弟は、“隣人”が空気流出事故で危地に陥っているため、必要な機器類を調達に行く途中、水原が発する信号(彼は月警察から位置確認のための発信機を渡されていました)を受信し、倒れているふたりを発見、収容したのだといいます。新聞記者のふりをした水原は、差し支えない範囲で脳共の情報を引き出そうとしますが、ユーディットと話している途中(ニルスは本来の任務を果たすため出かけています)、訓練期間を含め禁欲生活が長かった水原は「女なら誰でもいい」(おいっ)という気分になっており、つい強引に彼女の唇を奪ってしまいます。ところが、その結果、これまで研究一筋で男に縁が全くなかったユーディットは水原にめろめろに(笑)なってしまい、このことが今後に大きな意味を持ってくることになります。一方、シスコン(笑)の弟ニルスはこれを知って、水原を敵視するようになるのですが。少なくとも、「差し支えない範囲で」ユーディットが教えてくれた情報から、AVLは思想の柱でもあった中心人物ソプコ博士を暗殺されて以来、脳共では地球政府の方針を正さねばならないという傾向が高まり、地球政府に最後通牒を突きつけるとともに、月面各所に拠点を設けて活動していることが判明します。また、ラルソン姉弟をはじめとする多くの脳共メンバーは穏健派であり(地球への脅しもあくまで脅しであり、実行はすべきでないと考えています)、一部の過激派の思想や行動を憂慮しているようでした。
回復した水原は、ユーディットに送られて月面第二の都市インブリアへ到着し、月警察の岡本と合流します。その後、乃田とも再会した水原は、情報交換し、ユーディットが話していた危機にある“隣人”とは、伝説の町クレのことではないかという洞察を得ます。クレとは、月面で酸素と水を産生し、ドーム外でも空外服なしで活動できるようにするという壮大な計画を唱道した導師・呉真文が創設した居留地ですが、その所在地は知られておらず、ただの伝説だという噂もありました。乃田の旧知の情報通の中国人・洪正熙からクレが月の裏側にあることを聞いたふたりは、洪の友人でクレの有力者である袁への紹介状を書いてもらい、裏側へ向かいます。ところが、裏面を闊歩する海賊ガルシア一味に身ぐるみはがされて(オンボロの月面車だけあてがわれて)ほっぽり出されてしまいます。最も近いドームを目指して進んでいくと、遭難信号を発する月面車を発見、その内部では月面病(人事不省に陥って、何も行動できない精神病?)に罹患したと思われる日本人を見つけますが、後に彼は脳共を探索に送り込まれた月警察の諜報員だったことがわかります。ふたりは救難信号を発して、月の表裏境界線に近いフンボルトからの救助隊に収容されます。
フンボルトで、水原は、乃田がクレ発見に執念を燃やす理由を聞かされます。AVLのソプコ博士を暗殺したのはボテロという殺し屋でしたが、ボテロを追跡した国際警察の刑事が返り討ちにあって殺されています。その刑事こそ、乃田の父親でした。以来、乃田はボテロを追い続け、ついに彼がクレに潜伏しているという情報を得ていたのです。また、タイミングよくフンボルトには、日本人・栗名梓(これは明らかに、グインの生みの親がモデルですね。旦那の名も今なんとかだし。乃田もそうですが、本作には実在するSF関係者をモデルにしたキャラクターが大勢登場しているようです)が主宰する「白百合楽劇団」が公演に訪れていました。乃田は伝説の町クレの慰問公演を実行するよう栗名女史にけしかけ、捜査のカムフラージュに利用しようと考えます。当地の領事を務める北聯(旧ソ連)代表部のヴォズーモフの協力も確保し(実は月到着直後に水原が何の気なしに口にした一言から、北聯は水原を自分たちのシンパと判断していました)、裏側の地理に詳しいゼムリョフに同行してもらうことになった水原らと楽劇団は、クレ研究家の賀理神父をメンバーに加え、万全の体制でクレ探索行に出発します。フンボルトで水原は、ジドマークの情婦・村田さなえ子に命を狙われる一方、謎の一味(脳共の刺客?)からも銃撃を受けて九死に一生を得ますが。
遠征隊は途中、月鬼や飛び甲羅の群(月面では生物が生息できるはずはないのですが、いるものはいるんだからしょうがない)に襲われたり、空中に脅しのメッセージが描かれたり、不可解な妨害を立て続けに受けます。さらに水原を追ってきたミロナス一味の攻撃を受け、絶体絶命になったそのとき、亀ヶ岡の遮光器土偶(!)が突然現れ、水原をさらっていってしまいます(その後も、遮光器土偶はたびたび現れて水原の野危機を救いますが、正体はラストで明かされます)。安全な場所(?)に置き去りにされた水原は、AVL支援協会主事・黒人のアベベが操縦する月面車に救助され、ノギという小さなドームへ連れて行かれます。ここでクレのことを知っている人物を紹介すると言われたのですが、その人物を家に行くと、相手は殺されていました。親友を殺されたアベベは脳共急進派の横暴に憤り、水原を脳共本部へ案内すると申し出ます。そして、本部へ入り込んだ水原を迎えたのは、ユーディット・ラルソンと村田さなえ子でした。
一方、乃田、ヴォズーモフ、楽劇団一行は、すったもんだの紆余曲折の末、クレへたどりつきます。が、ボテロの消息を知っているはずの呉導師は既に老衰でみまかっており、後継者の導師にも服喪中のため面会不可ということで、乃田は絶望します。一方、楽劇団の栗名女史はインスピレーションを得て新たな劇の脚本と演出に取り掛かるのでした。(ここまでが上巻)
ユーディットと再会しても、ジドマークが相変わらず意識不明のままという状況やニルスの態度から、甘いひと時を過ごすわけにはいきません。それどころか、黒衛団と呼ばれる急進派の軍に捕らえられた水原は、隔離された牢獄へ放り込まれてしまいますが、そこにいたのは岡本をはじめとする国際警察や月警察の連絡を絶った探偵たちでした。そして牢獄の奥の特別房で、水原は鉄仮面をかぶせられた謎の囚人に出会います。彼こそ、脳共の老賢人と呼ばれるタヴァーネス汗でした。脳共の大幹部でありながら、急進派の手で幽閉されているタヴァーネスは、それなりに急進派内部にも影響力を及ぼしており、牢獄でもある程度自由な行動を許されているのだといいます。そして、タヴァーネスは水原に驚くべき事実を告げるのでした。
月の裏側には黒富士ともいうべき円錐形の山が鎮座していますが、それは岩石でできた山ではなく、有機生命とも無機質の機会とも判じがたい(まさにポスビでなくても「きみは本物の生命体か?」と質問したくなるような)存在で、中腹からは巨大な一つ目が下界を睥睨し、近寄る者は謎の脳波で洗脳し、アルコンのロボット摂政のごとく様々な命令を与えるといいます。タヴァーネスも妖富士に近づいたために、人知を超えた知識を得て、様々な兵器や機械を開発していますが、彼以外の脳共幹部は好戦的に洗脳されて、地球を征服し月面に独裁国家を打ち立てようとする勢力が台頭していました。タヴァーネスと共に脱獄に成功した水原や岡本たちは、ユーディットやアベベという脳共穏健派、実践的な戦力では黒衛団など物の数ではない海賊ガルシア一家、冷静な戦略家ヴォズーモフらと協力しながら妖富士な謎を解こうとしますが、脳共の本部都市イカロスでは急進派の独裁者ヴェルキンゲが革命ののろしを上げていました。
タヴァーネスと共に妖富士の内部(体内?)に入り込んだ水原は、妖富士の正体と、ホーガンもかくやという時空を超えた壮大な真相を知ることになるのですが――。

※特に後半は、ネタバレを防ぐため、かなりストーリーを端折ったり、ぼやかしたりしています(^^; ご了承ください。

オススメ度:☆☆☆☆



我が月は緑〈上〉 (ハヤカワ文庫JA) - 今日泊 亜蘭
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我が月は緑〈下〉 (ハヤカワ文庫JA) - 今日泊 亜蘭
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