貧乏くじはきみが引く ☆☆☆☆

(貧乏くじはきみが引く / ハドリー・チェイス / 創元推理文庫 1971)

先日読んだ「幸いなるかな、貧しき者」の2年前に書かれた長篇。プロットも似通った部分があります。

新聞記者ハリー・バーバーは、パーム・シティ警察署長の汚職をすっぱ抜こうとし、署長からの買収も拒否したため、はめられて無実の罪を着せられ、3年半の刑務所生活を余儀なくされていました。ようやく釈放されたハリーは、愛する妻ニーナが待つ家へ戻りますが、ニーナに精神面でも金銭面でも負担をかけた罪悪感にさいなまれ、なかなか社会復帰ができません。男として、夫としてのプライドに邪魔され、仕事を選り好みしては断られ、自己嫌悪に陥ってはニーナにつらく当たる、という悪循環に陥っています。
その晩も、なかば自棄になって酒場でウイスキーをあおっていたハリーは、電話室にハンドバックを忘れていった裕福そうな美貌の女性と知り合い、ある計画を持ち掛けられます。相手は、地元でも有数の資産家フェリックス・マルルーの後妻リアでした。リアは、フェリックスが溺愛している先妻の娘、18歳のオデットを偽装誘拐し、身代金50万ドルをフェリックスから騙し取るという計画をハリーに話します。成功すれば、ハリーの受け取る報酬は5万ドルという大金でした。聞けば、リアもオデットも大金を必要としていますが、フェリックスは正当な理由なしには金を渡すことはなく、偽装誘拐が安全で最も手っ取り早い手段だということでした。ニーナに金銭面で多大な迷惑をかけていることで金がほしかったハリーは、悩んだ末、計画に乗ることにします。
海岸のキャビンを密談用に借りたハリーは、綿密に計画を練り、リアとオデットに取るべき行動を徹底させようとします。実際、最初のリアの計画は穴だらけで、とても実行不可能なものでした。ハリーは、オデットが遊び仲間の青年に呼び出されて出かけたものの、待ち合わせ場所に現れず、行方不明になるよう仕向けることにします。オデットの仲間たちが行きそうにない酒場で彼女と落ち会い、車で空港へ送り届けてロサンゼルスへ行かせ、身代金の受け渡しが終わるまで潜伏させて、計画が成功すれば呼び戻し、マルルー家へ帰すというのが、ハリーの計画でした。もちろん、オデットは変装して本人とは似ても似つかぬ姿となり、偽名を名乗ることになります。
あとは計画を実行に移すだけとなったところで、ハリーが自宅へ帰ると、パーム・シティ警察のジョン・レニック警部補が待っていました。レニックはハリーとは学生時代からの親友で、今や汚職警官が一掃されて健全さを取り戻しているパーム・シティ警察の出世頭となっています。出所後のハリーの生活面を心配していたレニックは、地方検事メドウズの広報担当のポストをハリーに提案します。リアとの計画に着手しようとしていたハリーは躊躇しますが、ニーナの後押しもあり、警察内部の情報も得やすいと考えて、受諾することにします。
いよいよ計画を実行する晩になりますが、こういった計画がすんなりいかないのは世の習い、酒場ではオデットがしつこい酔っ払いにからまれ、結局は駐車場でハリーが酔っ払いを殴り倒すしかありませんでした。さらにオデットの車を乗り捨てようとした駐車場では不注意運転の車にぶつけられ、顔を覚えられそうになってしまいます。それでも、強面の誘拐犯を装ってマルルー家に電話したハリーは、フェリックスに要求を伝え、フェリックスも警察には通報せず、すぐに50万ドルを用意すると回答します。
ところが、地方検事の事務所へ出勤すると、すでにマルルー家で誘拐事件が発生したらしいことは、周知となっていました。フェリックスが休日にもかかわらず、取引銀行から50万ドルを引き出そうとしたため、ルールに従って銀行が警察へ通報したのです。メドウズもレニックも、マルルーへ直接尋ねることは自重し、誘拐という想定で動けるよう準備していました。
一方、フェリックスはハリーが指示した通り、札束をバッグに詰め、ハリーが指示した道路脇に放り出していきます。ずっしりしたバッグを入手したハリーは、計画通り、ロサンゼルスから戻ってきたオデットが潜伏しているキャビンへ向かいますが、なんとオデットは絞殺死体となっていました。あわてたハリーは、自分の車のトランクに遺体を入れ、捨てに行こうと考えますが、スクラップ寸前だった車は故障し、窮地に立たされます。地方検事のスタッフという身分にものを言わせて警官と交渉し、なんとか自宅までレッカー移動してもらいますが、遺体を始末することもできず、ニーナに見つからないよう、キーを落してしまったことにします。おまけに、50万ドルが入っているはずのバッグを開けると、中身は札束ではなく古新聞の束でした。リアに連絡しようとしても、病気で電話にすら出られない、と断られるばかりです。ここに至って、ハリーも偽装誘拐には裏があったことに気付き始めます。癌で余命いくばくもないフェリックスが死ねば、莫大な遺産は妻李リアと娘オデットが等分に相続するわけですが、オデットが死んでいれば、リアがひとりで全額を手に入れることになります。
その後、ちょっとしたミスから事の次第がニーナにばれてしまったハリーは、夫を信じて手助けしようとするニーナに支えられ、オデットの死体を盗難車のトランクに乗せて放置します。すぐに死体は発見され、フェリックスも誘拐犯から連絡を受けて身代金を払ったことを認めます。レニックをはじめとするパーム・シティ警察も精力的に活動を開始し、オデットが行方不明になった晩の目撃証言――酒場で殴られた酔っ払い、駐車場で衝突事故を起こした夫婦――などが集まってきます。容疑者の背格好がハリーによく似ていた(本人だから当たり前(^^;)ことから、ハリーをモデルにしたモンタージュ写真が作られて大量配布されます。やがて、オデットがロサンゼルスへ向かう際に乗った飛行機のCAの証言から、オデットは誘拐されたのではなく、自らの意志で姿を消したという疑いも高まります。ハリーは、マルルー家の運転手で元警官のオレイリーが不用意に発した言葉から、オデットを殺したのはオレイリーではないかと考えます。
ハリーは一か八かでリアとオレイリーを問い詰めますが、相手のほうが一枚も二枚も上でした。ハリーがいざという時の切り札として録音しておいた、リアやオデットと偽装誘拐計画を話し合うテープも、ニーナの命を脅かされて、結局はオレイリーに奪われてしまいます。そうこうするうちに、レニックもハリーの行動に不審を抱き、疑いを深めているようでした。最後の手段として、ハリーは地方検事の広報係という立場を利用して一芝居打ち、リアとオレイリーがボロを出すように仕向けます。

偽装誘拐計画を実行する際のハリーの行動は、「幸いなるかな、貧しき者」の主人公デイヴとあまり変わりませんが、大きな違いは、ハリーは基本的に善人であり、薄っぺらなプライドと劣等感に振り回されて悪事に手を染めてしまうという点です。そして、因果応報となるデイヴと違って、ハリーとニーナの場合は「最後に愛は勝つ」結果となるわけです。

オススメ度:☆☆☆☆


貧乏くじはきみが引く (創元推理文庫) - ジェームズ・ハドリー・チェイス
貧乏くじはきみが引く (創元推理文庫) - ジェームズ・ハドリー・チェイス

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