時と神々の物語 ☆☆☆☆

(時と神々の物語 / ロード・ダンセイニ / 河出文庫 2005)

荒俣宏さんが訳した「ペガーナの神々」(ダンセイニが初めて出版した作品)をハヤカワ文庫で読んだのは、大学1年の時(たしか)でした。
“始まりの時”よりも前に“偶然”と“運命”が賽を振って勝ったほうがマアナ=ユウド=スウシャイ(今回の新訳ではマーナ=ユード=スーシャーイに表記が変わっています)のもとへ赴き、「われのために神々を創れ」と告げ、そして神々が――天地や生きとし生けるものが創造された・・・という発端から、ギリシャや北欧、ヒンズーなどのいかなる神話とも異なる神々、預言者、人類の神秘的な関りを描く様々なエピソードに不思議な気持ちを味わったものでした。
本書は、「ペガーナの神々」、ハヤカワ文庫版では一部が訳されていなかった「時と神々」という、ダンセイニの創作神話の双璧をなす2篇のほか、ダンセイニの10冊目の作品集「三半球物語」(神話から同時代を怪奇幻想譚までバラエティに富んでいます)と、拾遺集とも言うべき「その他の物語」(作者の死後、単行本未収録だった短篇を集めたもの)の全作品が収録されています。

「ペガーナの神々」:“偶然”と“運命”のどちらか(どちらが勝者だったのかは、最後まで明らかにされません。どっちでも大した違いはない、という醒めた見方によるものでしょうか(^^;)の頼みに従って、マーナ=ユード=スーシャーイは様々な神々(生命を創造するキブ、時を司るシシュ、水を統べるスリッド、死をもたらすムングなど)を創造し、眠りに就きます。そして、時の果てのいつか、マーナ=ユード=スーシャーイが目覚める時、すべては無に帰すことが確定しているのです。こうして創造されたペガーナの世界、神々と人(王族、預言者、庶民まで)とのかかわりなどが、31の掌篇によって描かれます。各タイトルのみ記載しておきます。
「ペガーナの神々」、「鼓手スカールのこと」、「天地創造のこと」、「神々の<ゲーム>のこと」、「神々の詠唱」、「キブ、あるいは<ありとしある世界の命の送り手>の御言葉」、「シシュ、あるいは<時間の群をあやつる破壊者>について」、「スリッド、あるいは<海に御霊を宿す者>の御言葉」、「ムング、あるいは<ペガーナと縁のあいだの死の長>の御業」、「神官の詠唱」、「リンパン=トゥング、あるいは<喜びと歌人の神>の御言葉」、「ヨハルネス=ラハーイ、あるいは<ひとひらの夢と幻の神>のこと」、「進行の神ルーン、および千万の地神のこと」、「地神の叛乱」、「終わりを見つめる目のドロザンドのこと」、「沙漠の目」、「神でも獣でもないもののこと」、「預言者ヨナス」、「預言者ユグ」、「預言者アルヒレス=ホテップ」、「預言者カボック」、「海辺でユーン=イラーラにふりかかった災いのこと、および<日没の塔>建立のこと」、「神々がシディスを亡ぼされた次第について」、「インバウンがアラデックの地で一柱を除くすべての神々に仕える大預言者となった次第について」、「インバウンがゾドラクに見えた次第について」、「ペガーナ」、「インバウンの独白」、「インバウンが王に死のことを語った次第について」、「ウードのこと」、「河」、「滅びの鳥と<終わり>」

「時と神々」:「ペガーナの神々」の翌年に出版されたもの。前作と同じように神々と地上の人々(王族、預言者、庶民)とのかかわりが描かれますが、「ペガーナの神々」は神々の視点に立った作品が比較的多かったのに対して、こちらは人々の視点から描かれたエピソードが多いように思います。作者の視点も天上から地上に移ってきたということでしょうか。実際、これ以降、作者は神々を正面から描く作品を書かなくなっています。「ペガーナの神々」よりも、やや長めの作品20篇が収められています。内容を簡単に紹介(になってるかどうか(^^;)します。
「時と神々」:神々の憩いの場サルダスリオンを滅ぼしたのは、“時”でした。
「海の到来」:海を統べる神スリッドと、大地の守護者たるティンタゴンの戦いの結果は――。
「暁の伝説」:“暁の子”インザナは、黄金の毬で遊んでいましたが、黄金の毬は何度も行方不明になり、その度に世界が揺るがされます。
「人間の復讐」:神々が地上にもたらした疫病に苦しむ人々たちに、大予言者は神々への復讐を訴えます。
「神々が睡ったとき」:神々が眠っている隙に、闇の中から罪悪の霊、3体のヨジが地上に現れ、人々に自分たちを信仰するように求めます。
「存在しない王」:ルナザールの国に、歴史上、一度も王がいない理由とは(本当はいたのですが)。
「カイの洞窟」:過ぎ去った時を求めるカナザール王は、過去の時が収められている洞窟の守護者カイのもとへ赴き、取引を申し出ますが――。
「探索の悲哀」:真の神々を求めるカナザール王は、諸国を遍歴し、様々な神官や預言者の言葉に耳を傾けますが、求める答えはなかなか得られません。
「ヤーニスの人々」:ヤーニスの人々が崇めるのは、神々とは一線を画した、岩をまとった巨大なヤーニ・ザイでした。
「神々の名誉のために」:昔は平和だった三島列島の住人たちが終わりのない抗争を繰り広げている理由は、神々の到来でした。
「夜と朝」:夜と朝が出会ったとき、何が起きるのでしょうか。
「高利貸し」:ヤーンは人々に“命”を貸し出し、高い利息を取り立てていました。ところが、やがて人々はそのことを忘れて――。
「ムリディーン」:やっぱり無暗に神の偶像を彫ってはいけないのです。
「神々の秘密」:神々の秘密を聞いてしまった預言者には、一つの運命しか待っていません。
「南風」:南風が世界の北端に達するとき、何かが起こります。
「時の国で」:世界と神々を救うために、“時”に立ち向かった兵士たちの運命は。
「世界を哀れんだサルニダク」:脚が不ぞろいな侏儒サルニダクは、自分が蔑まれている都を離れ、神々の姿を追って旅に出ます。
「神々の冗談」:結果は笑い事ではありませんでした。
「預言者の夢」:ある預言者は夢の中で、世界や神々の行く末を決める“運命”と“偶然”のゲームを目にします。
「王の旅」:都の繁栄に飽きた王は、預言者の言葉を求めて旅立ち、世界を遍歴していきます。どの預言者に尋ねても、真の叡智は得られません。世界を一回りして王宮へ戻った王は、名も知らぬ最後の預言者の言葉を聞きます。

「三半球物語」:1919年に出版された作品集。神々を題材にした上記の作品集とは趣の異なる11篇(巻末の「われわれの知る野原の彼方」を3話に分ければ13篇)が収められています。
「ブウォナ・クブラの最後の夢」:キクーユ族の伝説になっている白人ブウォナ・クブラの名が冠された野営地で、二人のヨーロッパ人の旅人はロンドンの情景を目にします。
「オットフォードの郵便屋」:荒れ果てた丘陵地帯に建つ一軒家に年に一度だけ届く手紙を届けていた郵便屋は、妻にそそのかされて、手紙の中身を探ろうとしますが、その末路は当然予想されるものでした。初期のラヴクラフトが書きそうな話です。
「ブゥブ・アヒィラの祈り」:邪神に祈りを捧げようとしたアリ・アハシュは、ライバルのブゥブ・アヒィラに先を越されたことを知ります。アリにできることは、一つしかありませんでした。
「東の国と西の国」:満州の羊飼いが荒野で目にしたのは、ロンドンの二輪馬車レースでした。
「小競り合い」:神と人間の女との間に生まれた半神と、ドワーフ族との戦いの行く末は――。
「神はいかにしてミャオル・キ・ニンの仇討をしたか」:実際にはうまくいかなかったのですが(^^;
「神の贈り物」:神にわがままな願いをし続けていた男は、自分の行為を後悔し、ある行動に出ます。
「エメラルドの袋」:田舎の宿屋に現れたよそ者の老人は、エメラルドが詰まった袋を持っていました。地元の酔っ払いは老人に絡み始めますが――。
「茶色の古外套」:何の値打ちもなさそうな古外套をめぐって、競売の値がつり上がっていきます。当事者の二人も、冷静になってみると、なぜ自分がそんなに熱くなったのかわかりません。ところが、その外套にはとんでもない力が秘められていました。
「神秘の書」:忘れられた古代中国の河にまつわる伝説。
「驚異の都市」:その名は紐育。
「われわれの知る野原の彼方」:夢の国にあるヤンの川と周辺の都市をめぐる三部作。
 「ヤン川を下る長閑な日々」:「夢見る人の物語」にも単独で収録されている作品。ヤン川を下る船"川鳥号"に乗った語り手(作者のダンセイニ自身)は、周辺に点在する都市を歴訪していきます。
 「<見過ごし通り>のとある店」:もう一度ヤン川を訪れたいと望んだ語り手は、ロンドンの町中の、普通の人なら見過ごしてしまう通りにある不思議な店を訪ねます。この店の裏口から出れば、異世界へ行けるというのですが――。
 「ペルドンダリスの復讐者」:語り手が"川鳥号"で訪れたことがある都市ペルトンダリスは、後に1日で崩壊したといいます。その崩壊をもたらした者を訪ね、語り手はみたび異世界へ――ヤン川へ赴きます。

「その他の物語」:1980年に単行本未収録作品だけを集めて出版されたもの。戯曲や一部の作品は訳出されていません。
「谷間の幽霊」:谷間に出る幽霊は、人間とは限りません。そして、人間以上に哲学的です。。アンソロジー「怪奇礼賛」にも収録されています。
「サテュロスたちが踊る野原」:黄昏時の散歩に出た語り手は、とある野原でサテュロスの群が踊っているのを目にします。
「秋のクリケット」:誰もいない晩秋のクリケット場を見守る老人の目には、今は亡き名選手たちのプレイの様子がありありと映っていました。老人の望みは、彼らと一緒にプレイすることでした。
「もらい手のない<国の種>がヴァルハラから持ち去られた事の次第」:タイトル通りのお話(笑)。
「電離層の幽霊」:廃墟となっていた城を改修して住み始めたニーチェンズ氏は、城に住み着いている何者かの気配に悩まされます。霊媒も聖職者も役に立たず、ついにニーチェンズ氏は最新の科学に頼ります。科学者のグレイド氏が発明した装置によって、幽霊は上空へ吹き飛ばされましたが、安心したのも束の間、無数の幽霊が城に舞い降りてきます。すべては電離層の悪戯でした。SFホラー(ホラ?)。
「おかしいのはどこ?」:周囲に笑われているのではないかと悩むブードン氏ですが、何が原因で笑われているのかわからず、なんとか突き止めようとします。
「古い廊下にいる幽霊」:古色蒼然たる英国幽霊譚ですが、オチはラヴクラフトの某有名短篇と同じです。
「白鳥の王子」:同じ詐欺行為でも、こういうのは風情があります。
「ペリプル師への啓示」:クラブの図書室にいたペリプル師は、書物の中から現れた幽霊(?)に出会います。
「誓ってほんとうの話だとも」:こういう書き出しの話が本当であった試しはありません(^^;
「夜の森で」:夜の森をさまよう騎馬の勇士は、記憶を失っていました。やがて、行く手にきらびやかな屋敷が現れます。

オススメ度:☆☆☆☆


時と神々の物語 (河出文庫)
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