山師カリオストロの大冒険 ☆☆☆

(山師カリオストロの大冒険 / 種村 季弘 / 中公文庫 1985)

いかにも小説風のタイトルですが、実際はまじめな歴史ノンフィクションです。先日、似たような種村さんの著書「詐欺師の楽園」を読んでいますが、あちらはヨーロッパの歴史を彩った奇人や犯罪者を何人も紹介しているカタログ風の読みものでした。それに対して、こちらは同じように異彩を放った人物ひとりに焦点を絞って、その半生を詳細に描き出したものです。
主人公カリオストロは、聞きなれた名前ですが、初代アルセーヌ・ルパンが何度も抗争を繰り広げたカリオストロ伯爵夫人ではなく、ルパン3世がクラリスを守るために対決したカリオストロ伯爵でもありません――これら小説やアニメのキャラクターの元ネタとなった18世紀末の実在の人物です。シチリア島パレルモ出身のジュセッペ・バルサモが本名で、その後カリオストロ伯爵と名乗ってヨーロッパ各地を経巡り、数々の犯罪や詐欺行為に走りながら波乱の生涯を送ったとされており、似たような伝説の人物サンジェルマン伯爵やラスプーチンと比べると、素性がかなりはっきりしているようです。種村さんは、当時の利害関係者が著書やパンフレットで描き出しているカリオストロ像を引きつつ、当時の政治状況などを反映させて、真実のカリオストロの人物像を分析していきます。

まず、かのゲーテがパレルモを訪れて、カリオストロもどきの変装や芝居をしながら、その正体を探ろうとしたエピソードが語られます。次いで、当時に出版・発布されたいくつもの本やパンフレットを参照し、それぞれの著者の政治的立場や意図を分析して、フリーメーソンの高位の会員とされたカリオストロの行状を貶める(本質的にはフリーメイソン自体を非難・攻撃する)ために書かれたイエズス会(当然、ローマ教皇庁の息がかかっています)の偏見に満ちた文書と、それに対してフリーメイソンがカリオストロ(というよりは、フリーメイソンの結社自体)を擁護するために発表した小論文を対比しつつ、カリオストロことジュセッペ・バルサモの生い立ちから青年期までを紹介しています。
続いて、師と仰ぐアルタトスとの出会いと、彼と一緒にアレキサンドリア、ロードス島、マルタなどを遍歴した後、ローマにて、詐欺師として生涯を共にすることになるロレンツァ・フェリチアーニと結婚し、南欧周辺を旅して、途中カサノヴァと邂逅しています。
その後、1776年ころから、カリオストロとしての本格的な活動が始まります。ロンドンに現れてフリーメイソンの正式会員となり、北東へ向かった彼はブリュッセル、ミッタウ、ペテルブルグ、ワルシャワなど、各地で名声をほしいままにします。彼が巧妙だったのは、土地の実情に合わせてアプローチを変えたことで、最初から降霊術などオカルト的演出で貴族社会に溶け込むこともあれば、庶民に対する無料診療などを行って信用を得てから上流階級へ浸透することもあり、どちらも成功裏に終わって、様々な財を得るのでした。
しかし、名声が高まるにつれて敵も増え、攻撃されることも多くなっていきます。たびたび危機を脱したカリオストロですが、パリでは「王妃の頸飾り」事件に連座してバスチーユ牢獄へ投獄され、釈放後にロンドンに渡ってからも運命が好転することはありませんでした。フランス革命後、ローマに舞い戻った彼は異端審問法廷に引き出され、終身刑を言い渡されて、獄死する運命を歩むことになります。

上記は、ざっと大筋を要約しただけですが、本文は、より詳しいエピソードを生き生きと紹介しており、18世紀後半という歴史の大変動期という時代背景が、ひとりの山師的人物の運命とどう関わっていったかという点が興味深く描き出されています。

オススメ度:☆☆☆


山師カリオストロの大冒険 (中公文庫) - 種村 季弘
山師カリオストロの大冒険 (中公文庫) - 種村 季弘

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