死の影 ☆☆☆

(死の影 / 倉阪 鬼一郎 / 廣済堂文庫 1999)

初期の『異形コレクション』の出版元だった廣済堂出版が、書下ろし短篇アンソロジーの『異形コレクション』に続いて、書下ろし長篇ホラーの『異形招待席』を企画したのは1999年のこと。本書「死の影」を第1弾に、「リアルヘブンへようこそ」(牧野 修)、「廃流」(斎藤 始)の3冊が出ましたが、出版方針が変わったため、あっさり打ち切りになってしまいました。『異形コレクション』は光文社文庫に移って、今も健在ですが、『招待席』は討ち死に――本書のあとがきで、倉阪さんが「将来は日本のホラー史に残るであろうシリーズ」と書いていらっしゃるのも、今となっては虚しく感じてしまいますね。
ですが、それだけ気合が入っている倉阪さんですから、ぜひ「怖い長篇ホラー」を書きたいとこだわって、相当に凝ったストーリーになっています。小池真理子さんの「墓地を見おろす家」を超えたかったとのことで、同じようにマンションが舞台となっています。

作家の唐崎は、都心にある新築マンションを購入し、引っ越してきました。実は唐崎は、亡くなった婚約者が書き残したホラー小説「ブラッド」(倉阪さんに同タイトルのホラー小説がありますな)を自分の作品として発表、ベストセラーとなっています。第2弾を書こうとしているのですが、筆は進まず、気分転換に印税の一部を使って新たな家を手に入れたというわけです。
このマンション「フェノワール東都」の経営母体は「愛と平和の園」という新興宗教団体で、マンションからは4階の回廊を通じて隣の神殿(?)とつながっており、裏手には幼稚園もあります。ですが、特にマンション入居者に入信を強制するわけでもありません。まだ入居者は少ないようですが、唐崎以外にも、いろいろといわくのある人々が入居して来ていました。3階の夏木エリカは元売れっ子モデルでしたが、所属していたプロダクションの女社長を殺した過去があります。彼女は嫌疑はかけられたものの捕まることはなく、以降も殺人衝動の赴くまま、連続猟奇殺人を続けていました(土地勘のない場所へ行って無関係の人を行きずりで殺しているため、捕まっていません)。7階の関川綾美は、ストーカーにつきまとわれて、挙句の果てに自分の部屋でストーカーに自殺されるという体験をしており、過去と決別するために、貯金をはたいてこのマンションを購入しています。また、唐沢と同じ階で健康食品の通販をしているという山田にも、裏の顔がありました。
唐沢は「愛と平和の園」に興味を持ち、調査をしようと考えますが、現在の恋人でフリールポライターの久野麻亜子は乗り気ではありません。麻亜子は連続殺人犯を扱ったノンフィクションを出そうとしていますが、自分が追っている連続殺人犯の元モデルが唐沢のマンションで暮らしているとは、彼女も思いもしませんでした。
その頃、「愛と平和の園」の幼稚園では、園児のひとりが行方不明になり、わざわざ故郷からスカウトされてきた保母の阿久野ゆり子が責任を感じていました。悩んだゆり子は、団体の講和会に出てみることにしますが、その結果、ゆり子は悪夢のような体験にさらされることになります。
やがて、マンションの住人たちは異様な体験を繰り返すことになります。唐沢は死んだ恋人・洋子の声を聞き、綾美は死んだはずのストーカーの幻に悩まされるようになります。気付けば、マンションのあちこちには、手に水かきの生えた女性像が置かれています。その顔は、目と目の間が広く、人間離れしていました(これを読んだだけで、ピンとくる人にはピンときますよね)。夏木エリカも衝動を抑えきれず、自分のルールを逸脱してマンションの近所で幼稚園児を殺してしまいます。さらに狂気の度を増したエリカは、ついにマンション住人を皆殺しにしようと決意します。一方、教団を調査する唐沢と、連続殺人を追う麻亜子の軌跡は交錯しますが、殺人鬼エリカに追われた唐沢は、教団の神殿に入り込み、その秘密の一端を知ることになります。

と、ここまで紹介したように、サイコホラー、宗教ホラー、ゴーストストーリー、因縁話、果ては●●●●ー神話までが複雑に絡み合う構成になっているわけですが、短い中にネタを放り込み過ぎて、消化不良気味になっていることは否めません。倍のページ数を使えたら、クーンツ張りのモダンホラー大作になっていたという気もするのですが。

オススメ度:☆☆☆
(実際の読了日:2012/2/24)


死の影 (広済堂文庫―異形招待席)
死の影 (広済堂文庫―異形招待席)

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