フライデイ(上・下) ☆☆☆☆☆

(フライデイ 上・下 / ロバート・A・ハインライン / ハヤカワ文庫SF 1994)

ハインライン晩期の長篇です(原書が出たのは1986年)。
舞台は恒星間飛行が確立した未来。月や太陽系内の小惑星にも人類のコロニーが築かれ、さらに100光年以内にある恒星系の地球型惑星にも、植民が行われています。一方、地球上では様々な小国が分立し、政治信条や思想・宗教に基づいて対立や局地的紛争が繰り返されています。
主人公のフライデイは、遺伝子工学を駆使して創られた人工人間で、その能力を生かして“戦闘伝書使”として活躍しています。ボスと呼ばれる雇い主が誰の依頼で動いているかは不明ですが、フライデイはボスを信頼しており、困難な仕事を次々とこなしています――“戦闘伝書使”とは、機密マイクロフィルムなどを秘密裏に運搬するエージェントで、任務を妨げる相手に対しては、最悪の場合、殺すことも厭いません。
今日もフライデイは、超人的な能力と巧妙に偽造された身分を駆使して、任務を完遂したところでした。帝国(かつてのシカゴ近辺)にある本拠に帰還する寸前、敵対組織に誘拐され、レイプと拷問を受けますが、訓練で鍛えられた心身(もちろん、生身の人間なら屈服してしまったでしょうが――敵はフライデイを生身の女性と考えていました)で耐えぬき、ボスが派遣した部隊に救助されます。
回復後、休暇を取ったフライデイは、ニュージーランドの家族共同体(契約による多夫多妻制の擬似家族)の元へ帰りますが、ふとしたことから人工人間という正体を明かしてしまい、家族を追放されてしまいます(つまり、この時代、人工人間に対しては根強い偏見と差別があるわけです)。落ち込んだフライデイは、旅行中に知り合ったパイロットのイアンのアパートに転がり込み、結局はウィニペグにあるイアンの家までついていくことになります。そこにはイアンの妻ジャネットとフランス人科学者ジョルジュがいて、傷ついたフライデイの心と身体を慰めてくれました。ところが、“赤い木曜日”と名付けられることになる世界同時テロが勃発し、すべての国境は閉鎖され、交通や通信も途絶してしまいます。任務への復帰を決意したフライデイは、自分の正体を知ったジョルジュ(彼は遺伝子工学者でした)と一緒に、国境を突破してカリフォルニアへ向かい、なんとかボスと連絡を取ろうとします。
ジョルジュと分かれて単身、帝国への潜入に成功したフライデイは、繰り返される肩透かしと冒険の末、ようやく組織へ復帰します。そしてボスから新たな命令を受けたフライデイは、過去の歴史をひたすら勉強することになりますが、それはフライデイの潜在能力を訓練し、開花させるものでした。しかし突然、組織は解体されることになり、放り出されたフライデイは、ボスの忠告に従って、外宇宙へ出て行くことを考え始めます。そして、とある機密任務を請け負ったフライデイは、恒星間宇宙船へ乗り込みますが・・・。

ストーリーは一直線でシンプルですが、物語に幅を持たせているのは、やはり人工人間という自分のアイデンティティに折り合いを付けようと苦悩する、フライデイのキャラクターでしょう。完璧な美貌とプロポーションの持ち主で、恋の相手にも不自由しない彼女ですが(手術を受ければ妊娠・出産も可能)、やはり「母親から生まれた」人間とは違う自分にコンプレックスを持っています。このような「外見は人間とまったく変わらないのに人間ではない」キャラクターの苦悩や成長を描いた作品は数多いですが(エイミー・トムスンの「ヴァーチャル・ガール」とか、日本の米田淳一『プリンセス・プラスティック』シリーズとか)、この「フライデイ」は必読と言えます。

オススメ度:☆☆☆☆☆


フライデイ〈上〉 (ハヤカワ文庫)
フライデイ〈上〉 (ハヤカワ文庫)

フライデイ〈下〉 (ハヤカワ文庫)
フライデイ〈下〉 (ハヤカワ文庫)

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