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zoom RSS 招かれざる客たちのビュッフェ

<<   作成日時 : 2006/09/26 19:19   >>

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招かれざる客たちのビュッフェ / クリスチアナ・ブランド / 創元推理文庫 2001)

マニア好みのミステリを書く女流作家だという評判を聞いて(しかもクリスティやセイヤーズと同じ英国女流作家!)、楽しみにしていたブランドの初読みです。
タイトルから推察されるように、ビュッフェでのコース料理になぞらえたバラエティに富む短篇が16篇、収められています。ビュッフェ(軽食堂)なので、フルコースではないところにも作者のひねりの利いたセンスが感じられます。
では、順番に賞味して行きましょう(笑)。
食前のカクテルは、長編作品でも活躍するコックリル警部が探偵役を務める4篇です。
「事件のあとに」:シェイクスピア劇を演ずる劇団で起こった女優殺人事件。容疑者は起訴されましたが、陪審によって無罪とされました。それでも事件をしくじったわけではない、と自慢する担当の老刑事の話を聞きながら、コックリル警部が最後に新事実を指摘して老刑事をぎゃふんと言わせます。役者のメーキャップの陰に真犯人を明示する証拠が隠れていると看破していた老刑事ですが、たった一点の見落としが致命傷となりました。もったいぶって話を小出しにする老刑事の先手を打って、言いたいことを代わりにしゃべってしまうコックリル警部が小気味よいです。
「血兄弟」:一卵性双生児であることを利用して、互いが犯した犯罪の隠蔽を図る兄弟ですが、お互いに念には念を入れすぎたために墓穴を掘ってしまうという倒叙ミステリ。
「婚姻飛翔」:狷介で横暴な富豪キャクストンが、自分の結婚式のパーティで毒殺されます。新婦エリザベスは、富豪の亡くなった前妻を世話していた元看護婦で、若く美貌の持ち主。キャクストンの死を願っていたと思われるのは3人――前妻の連れ子でギャンブラーのビル、キャクストンの実の息子シド、主治医のロスでした。コックリル警部の捜査では、この3人ともに動機(エリザベスを憎からず思っていた)と機会(青酸を入手しキャクストンに盛ることができた)を持っていましたが、いずれも決定的な証拠はありません。被害者が生前に発していた何気ないひとことから、コックリルが導き出した真相は?
「カップの中の毒」:医師である夫の不実を疑った妻が、狂言自殺を装って乗り込んできた浮気相手の看護婦を毒殺してしまいます。しかし、意外な事実が次々に明らかになって、妻は嘘を嘘で塗りかため、なんとか嫌疑を逃れようとしますが――。解説で北村薫さんが指摘されていますが、作者は妻が犯したミスをあからさまに提示していて、ちょっとミステリを読みなれた読者ならすぐに気付いてしまいます(実際、気付きました)。それを承知の上で、最後まで引っ張っていく心理描写の変化が秀逸です。毒殺ミステリとしては、セイヤーズの「疑惑」と並ぶ印象深い作品でした。
続いてはアントレ――メインディッシュの肉料理です。
「ジェミニー・クリケット事件」:弁護士ジェミニー・クリケットが密室で殺害された事件がきっかけで、ある老人のもとを訪れた青年ジャイルズは、老人に問われるままに、自分も関係者だったジェミニー殺害事件を語ります。人権派弁護士だったジェミニーは、被害者の遺児や加害者の子供たちを後見人となって援助し、成長すれば職の世話までしていました。ジャイルズもそんなひとりで、同じ境遇のルーパートやヘレンと一緒にジェレミーの仕事を手伝っていました。ジャイルズもルーパートもヘレンのことが好きで、いずれ結婚したいと思っていましたが、ヘレンは別の男性に熱を上げています。そんな折、急を告げる電話を受けたルーパートが、同じように連絡を受けた警官隊と駆けつけてみると、ジェレミーは鍵のかかった事務所で首を絞められた上、ナイフで刺されて死んでおり、室内には火が放たれていました。さらにその日の夜、地元の警官がジェレミーと同じ手口で殺されているのが、郊外で発見されます。ジャイルズの話に基いて、老人は次々と容疑者を挙げ、最後に真犯人を指摘します。あらゆる描写や会話が伏線として使われ、二重三重のどんでん返しは鮮やかで(真相を知った上で読み直すと、そのすごさが判ります)、本書の中で一番の出来と言われるのもうなずけます。ちなみにここで使われている密室トリックは、アニメ「ルパン3世」の第一期シリーズでも使われていました。
「スケープゴート」:法廷ミステリの風味を持つ異色作。好色漢として名を馳せた奇術師が、病院の新館を建設するための定礎式で、建設中の別館から狙撃され、弾丸が命中した助手は死亡します。別館の3階には小銃が固定されており、なんらかの機械的手段で発射されたようでした。この建物には当時、屋上で撮影していたカメラマンと入口で見張りをしていた巡査しかおらず、このふたりが容疑者となりますが、決定的証拠はありません。13年後、関係者が一堂に会します。事件がきっかけで失職し、貧困のうちに死んだ巡査の息子の疑念を晴らすのが目的でした。擬似裁判が始まり、当時の意外な人間関係が次々に曝露されます。明らかになった真相とは――。
「もう山査子摘みはおしまい」:いわゆる“奇妙な味”に分類されそうな作品。知恵遅れの少女になつかれていたヒッピーの青年が、彼女から呼び出された場所へ行くと、少女は川で溺れ死んでいました。自分が疑われるのではないかと思った青年は仲間に相談し、知恵を出し合いますが、それが次々と裏目に出て――。目撃した子供たちの証言を含め、悪人は誰もいないのに、些細な嘘とごまかしが悲劇を生むプロセスにぞくりとさせられます。
ちょっと暗い気分になったら、ユーモラスな犯罪ドラマで口直しをしましょう(笑)。
「スコットランドの姪」:老婦人の屋敷から値打ち物の真珠の首飾りを盗み出そうと考えた泥棒エドガーは、相棒のパッツィーと悪巧みをめぐらします。件の老婦人は、若い頃につらく当たったスコットランド人の姪がいつか復讐に来ると信じ込んでいて、防犯には異様に気を遣っています。エドガーは老婦人の家政婦グラディスを篭絡し、いよいよ犯行に踏み切りますが――。
「スケープゴート」と同様、「スコットランドの姪」の正体は誰か、最後の最後まで二転三転するサスペンスが秀逸。
続いてはプチ・フール(ひと口で食べられるケーキ)を4品です。
「ジャケット」:何事にも自分より優れている妻がうとましくなった夫が、完全犯罪による殺害を計画しますが、万全を期したことが皮肉な結果に繋がります。こちらも伏線の張り方が見事です。
「メリーゴーラウンド」:作者自身がアンソロジーを編んでいる、“恐るべき子供たち”テーマに分類されそうな作品。親の間でスキャンダルをネタに恐喝の輪が広がる中、子供たちは――。作者のシニカルな視点が光ります。
「目撃」:少女嗜虐趣味のあるアラブの金持ちが、豪華な自家用ロールスロイスの車内で刺殺されます。運転手が嫌疑を受けますが、ちょうどロールスロイスの隣を走るタクシーに乗っていた女性が「もうひとり男が乗っているのを見た」と証言し、運転手の嫌疑は晴れますが、真相は――? でもこの原題はネタバレでは(笑)。
「バルコニーからの眺め」:夫とふたり暮らしのミセス・ジェニングスは、隣家の老婦人から常に見張られていました。2階のバルコニーで車椅子に座った老婦人は、彼女の一挙一動を観察しては、自分の家族に言いふらしています。その声が聞こえるような気がするミセス・ジェニングスはストレスが溜まって夫ともぎくしゃくし、悲劇が訪れます。しかし、ラストでとんでもない真相が――。これも“奇妙な味”の典型ですね。
最後に、ブラック・コーヒーをお代わりしましょう。かなりブラックな味わいの4篇です。
「この家に祝福あれ」:ある雨の晩、ミセス・ボーンは宿無しの若夫婦を気の毒に思って納屋を貸し、身重だった若妻はそこで男の子を産み落とします。ジョーとマリリンという夫婦の名前から赤ん坊はイエス・キリストの再臨ではないかと思い込んだミセス・ボーンの言動は次第に常軌を逸し始めます。困った若夫婦がとった解決手段とは――。ああ、ブラック(笑)。
「ごくふつうの男」:現代風に言えばサイコ・サスペンスでしょう。実直そうな男を家に入れてしまった女性は、ここのところずっと、いやらしい悪戯電話をかけてきていた相手だと気付きます。自分の性格欠陥を切々と訴える男に、この女性がとった行動は――。
「囁き」:親の前では猫をかぶっているティーンエイジャーのダフネは、刺激を求めて、従兄弟のサイモンに無理やり頼んで、荒くれどもが集まる酒場へ連れて行ってもらいますが、そこでドラッグでハイになった結果、ヤクザ者にレイプされてしまいます。厳格な父親に叱られたくない一心で、ダフネは嘘を並べ立てますが、その結果、恐ろしい出来事を引き起こしてしまいます。
「神の御業」:ポーストのアブナア伯父シリーズにも、同じタイトルの短篇がありましたね。自分の妻と娘が交通事故で死ぬ現場を目撃した巡査は、公平中立な証言をして称賛されますが・・・。
特に後半の作品群では、「世の中、そんなものよ」というブランドのシニカルな視点が際立っているという気がします。文庫で出ているブランド作品はすべて購入済みです。いつか(笑)登場。

オススメ度:☆☆☆☆
招かれざる客たちのビュッフェ (創元推理文庫)

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