獣の数字 1~3 ☆☆

(獣の数字 1~3 / ロバート・A・ハインライン / ハヤカワ文庫SF 1993)

ハインライン晩年の大長篇で、本国では「ハインラインのワーストワン」(笑)と評されている作品です。たしかに、プロットといいストーリーといい、「ハインライン作品を徹底的に読み漁ったマニアが、作者並びにSFへの愛情をこめて内輪ネタ・楽屋落ち満載の二次創作小説を書いて、コミケで売っていた」という感じです(爆)。解説の川又千秋さんも書かれているように、初めてハインラインを読む人は、決して手にとってはいけない本です。特に、「愛に時間を」を読んでいないと、3巻の内容がちんぷんかんぷんになってしまうでしょう。

ストーリーそのものは、かなりシンプルです。
とあるパーティで、すこぶるつきの美女ディーティーに出会ったゼバディア(ゼブ)は、その父親ジェイク・バロウズ博士はマッドサイエンティストで、タイムマシンを開発した、という話を聞かされます。パーティの主催者である裕福な中年女性ヒルダを連れ、ジェイクの家へタイムマシンを見に行くことにしますが、駐車場でディーティーの車が何者かに爆破されてしまいます。危機が迫ると直前に察知できるゼブの第六感に救われた一行は、ゼブの車“ゲイ・デシーバー”(とはいっても自動車ではなく、空も飛べる空陸両用ヴィークルです)でこっそりとバロウズ邸へ向かいます。屋敷へ着くと、年上のふたり(ジェイクとヒルダ)、若いふたり(ゼブとディーティー)は結婚式を挙げますが、ここにも謎の敵の魔手が迫っていることを察知して、タイムマシンをゲイ・デシーバーに積み込んで脱出します。そして、カリフォルニア山中に密かに作られた“聖域”に逃げ込みますが、そこで4人は、バロウズ邸が焼失し、アジアに研究旅行中のゼブの兄が殺されたことを知ります。
ジェイクが六次元幾何学理論に基づいて完成させたタイムマシンは、実は次元間移動装置であり、無数に存在する様々なパラレルワールドを訪れることができることが判明します。パラレルワールドは、聖書にある“獣の数字”666――ではなく、6の6乗の6乗だけ存在しているようでした。そして、森林警備隊に化けた敵――手足に三つの関節を持ち、青い血が流れている異生物が“聖域”にやって来るに至って、この世界は安住できる場所ではないことが明らかになり、一行はゲイに乗り込んでパラレルワールドに逃れようとします。直後に、“聖域”は核兵器で破壊されてしまい、4人の個人データは社会から抹消されてしまいました。
車を制御しているコンピュータのゲイは、音声コミュニケーション能力がありましたが、天才プログラマーであるディーティーの再プログラミングによって、本当の人格があるかのように生まれ変わり、瞬間的な次元間移動も可能になりました。こうして、敵がいない並行宇宙を探しての長い冒険行が始まります。
遠距離移動もできることに気付いた4人は、火星まで行ってみることにします。なにせ、ゼブとディーティーのフルネームは、ゼバディア・ジョン・カーターとデジャー・ソリス・バロウズなのですから(おまけにゼブもジェイクもパルプ雑誌の熱狂的コレクター)。こうして訪れたバルスームですが、こちらの世界の火星は、ちと様子が違いました。地球ではアメリカ合衆国が存在せず、大英帝国と帝政ロシアが覇権を競っており、火星も英国植民地とロシア植民地に分断されています。英国の総督に味方した一行は、侵略を目論むロシアの補給基地を全滅させ、火星大戦の危機を回避した後、別の宇宙へと旅立ちます。
別の次元軸に沿って旅するうちに、4人は自分たちが愛読した小説の世界が実在していることを発見します。かれらはオズの世界、ガリバー旅行記の世界、不思議の国のアリスの世界などを遍歴し、特にオズの世界では、善き魔女グリンダの魔法で、ゲイ・デシーバーを居心地良く改良してもらいます。
さらに、とある宇宙空間に出たゲイは、すぐ近くに出現した宇宙ヨットから呼びかけを受けます。宇宙ヨットの搭載コンピューターはドーラと名乗り、船を指揮していたのはローラとレイズという双子――つまり、4人はラザルス・ロングが活躍する「愛は時間を」の時間線に出現してしまったのでした。ラザルスは、次元移動装置を使って、あることをしてくれるように、4人に依頼してきます。

こういったメインのストーリーに加えて、繰り返し描かれるのは、「男って、なんてバカなの」という述懐と、オープンな性の悦びを堪能する登場人物たちです(この辺は、ハインライン晩年の作品に共通するモチーフですね。彼自身、奥方からしょっちゅう同じことを言われていたのかもしれません(^^;)。
そして、最終章に至って、物語はアリスの「キ印お茶会」もかくやという収拾不可能、大混乱のエンディングを迎えることになります。そして、読者は叫ぶことでしょう――ああ、もう!

オススメ度:☆☆


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