アート偏愛 ☆☆☆☆

(アート偏愛 / 井上 雅彦:編 / 光文社文庫 2005)

テーマ別書下ろしホラー・アンソロジー『異形コレクション』の第34巻です。今回は、広い意味での「アート(美術、芸術、音楽、工芸など)」に取り憑かれた人々や状況をテーマにしており、全18篇(考え方によってはプラス4篇)が収められています。

「ヴェネツィアの恋人」(高野 史緒):ヴィオレッタという名の女性と、アンドレアスという名の男性は、占い女の操る運命の輪に乗って、様々な人格・地位に転生し、相手を想うかなわぬ恋に身を焦がし、大切なものを犠牲にして恋を成就させることを無限に繰り返します。

「デッサンが狂っている」(飛鳥部 勝則):語り手は、奇妙な雰囲気の美術評論家・弥生亮子と共に、(弥生いわく)稀有の技術の持ち主という職人・霧島武がアパートで殺害された現場に足を踏み入れます。室内には、犯人と思われる青年・西村晴彦がいましたが、西村は「俺を犯人だと思うなら、凶器を発見してみろ」とうそぶきます。確かに、狭いアパート内には、霧島を撲殺したと思われる重い鈍器は見つかりませんでした。どこかピントの狂った展開に戸惑う語り手ですが、やがて西村が使って隠した(?)凶器に思い当たります。そそいて、霧島がどのような技術の持ち主だったのかも――。

「孕み画」(森 真沙子):画家になることに挫折した熊沢一郎は、先輩で画廊の主人からも認められている富永から、丸山応挙の筆になるという絵を売りつけられますが、それは、熊沢が惚れている酒場の女給キキ(富永の情婦でした)の譲渡料のようなものでした。キキと半同棲のような状態になった熊沢は、富永から買い取った絵をキキの部屋に飾りますが、キキいわく、それは夫婦に子宝をもたらす「孕み画でした。

「シーボーン」(加門 七海):語り手は、美大の卒業作品にシーボーンアート(海から漂着する様々な品物を組み合わせた造形)を選び、海辺の村に泊まり込んで、漂着物を拾い集めていました。大規模な台風が通り過ぎた後、語り手は漂着していた巨大な一枚板を発見します。地元の老人によれば、これは補陀落渡海のための船の仕切りに使われていたものでした。語り手は板を大切に小屋にしまい込みますが、それはただの板ではありませんでした。

「黙の家」(折原 一):実在した異色の画家・石田黙(実在の画家であるのは本当)の作品を集めた、非公開の「石田黙美術館」を訪れた片桐雪江は、内部で次から次へと思わぬ情景に出会い、心を揺り動かされます。実は、ここは美術館であると同時に精神病院でもあったのです。そして、雪江は独りではありませんでした。

「木漏れ陽のミューズ」(田中 文雄):卒業の15年後に開かれた県立滝川高校の同窓会では、将来を嘱望された画家でありながら、筆を折って片田舎の高校の美術教師となり、海で溺死した安納のことが話題となります。安納と同じように芸術の才能があり、フルート奏者として成功した伴は、安納の親友であるとともに、ひとりの女性・輝子を争った仲でもありました。輝子は伴の妻となり、安納は輝子への想いを断ち切ったようでしたが、伴はずっと二人のことを疑い、不安を抱いて、ついには安納を訪ねて詰問することまでします。その頃、輝子は不治の病に冒されていましたが、安納の死と共に、奇跡的に回復するのでした。

「約翰の切首」(速瀬 れい):創作歌舞伎でサロメを演じることになった女形・瀧川ほたるは、ヨハネの生首を演じさせる(?)ため、明治時代の生き人形の首を選び出します。その首には、不思議な因縁がありました。

「怪人明智文代」(大槻ケンヂ):明智文代とは、乱歩が創造した名探偵・明智小五郎の妻です。筆者(大槻ケンヂ自身)が乱歩の土蔵を調べていると、古い本の隙間から、一通の手紙が見つかります。それは、明智文代から乱歩に宛てたもので、驚くべきことが書かれていました。

「天然の美・人造の美」(谷 敦志):"異形"コレクションにふさわしい写真家・谷氏の作品に、4人の"異形コレクション"常連作家が短文を添えた贅沢な一品。作家と短文のタイトルは、以下の通りです。
 「来館者心得」(井上 雅彦)
 「黄金の夢」(奥田 哲也)
 「玩具」(友成 純一)
 「創世記」(皆川 博子)

「ドリアン・グレイの画仙女」(吉川 良太郎):19世紀末、武装革命に失敗して中国から逃れた孫文は、英国のロンドンに潜伏していました。ロンドンで古書店を経営する楊月笙青年の手引きで有力者の支持を得ようとしていた孫文は、ある晩、清朝の刺客に襲われますが、これを撃退した際、相手が発射した銃の流れ弾が通りがかりの少女に当たってしまいます。Dと名乗る老人は、瀕死の少女を自宅へ連れ帰り、孫文と月笙も付き添います。Dは写真スタジオを経営しているようで、撃たれた少女のヌード写真が何枚も飾られています。驚くべきことに、死にかけていた少女は回復し、代わりに写真の少女が死体に変わってしまいます。驚く孫文に、Dは「ドリアン・グレイの肖像」と同じことだと説明します。

「オペラントの肖像」(平山 夢明):厳しい条件付け(オペラント)によって、秩序と平穏が行き渡っている未来社会では、美術や芸術は、条件付けを弱めるという理由から、禁断のものとされていました。語り手は、美術品を隠し持つ“条件付け違反者”を摘発する組織に属していましたが、違反者として死んだ女性の夫と娘の身辺を探っていましたが、やがて娘のカノンに惹かれるようになっていきます。カノンに自分の秘密を打ち明けた語り手でしたが――。

「怪物画趣味」(有栖川 有栖):週に1回、若い女性を狙った猟奇的な殺人が発生し、市民やマスコミは犯人を“怪物”と呼んで恐れています。語り手の捜査官は、怪物画を集めるのが趣味で、最初の被害者のパトロン(?)でもあった古河を怪しいと睨んで身辺を探っていました。やがて、古河が心酔している怪物画家の犬伏の存在が浮かび上がってきます。

「死者の日」(牧野 修):早熟な芸術家だった徳郎は、アウトサイダー・アート(子供や精神障碍者が、芸術と意識せずに作成する絵画や造形)を利用した治療を行っている幡羅神経科病院で、ひとりの少女と知り合います。17歳のミナコは、独自のアニメーションを作成しており、徳郎はミナコの作品を高く評価していました。やがて、ミナコは死に取りつかれるようになり、ついには冥界の死神とつながるアニメーションを作り上げます。一緒に作品を見ていた徳郎は、死神に連れ去られるミナコが伸ばした手をつかむことができませんでした。そして30年後、徳郎は再び幡羅神経科病院を訪ねます。

「瓶」(竹河 聖):遠山次郎は、西洋骨董店を営む伯父から、細かな彫刻が施された小さな瓶を手に入れます。瓶の正体がわからない次郎は、好事家の仙海老人のもとに持ち込みますが、その瓶は想像以上に価値があり、同時に深い感情がこめられたものでした。

「輝風 戻る能はず」(朝松 健):今回は、一休宗純ものではありません。天正19年、流浪の武士、土気正三郎は、一羽流開祖・諸岡一羽の人間業とも思えない剣術の秘技を目撃し、すぐさま弟子入りを申し込みます。3人の兄弟子と共に修行に励んだ正三郎は、師の諸岡一羽が全身をひどい皮膚の爛れに冒されていることを知りますが、それは世間で恐れられている業病ではありませんでした。師の秘術を盗もうとしている兄弟子の一人、岩間小熊から、師匠の剣技は立川流の妖術によるものだと聞かされた正三郎は、師匠の秘薬を口にし、師匠との立ち合いに臨みます。同じ秘薬を服用していれば、体力に勝る正三郎が勝つはずでした。しかし、正三郎は、師の秘術の真の恐ろしさを知りませんでした。

「筆致」(菊地 秀行):語り手の同僚、林田健介は、イケメンで仕事もでき、女性にモテモテ――でしたが、奇妙な癖があり、そのために転職を繰り返していました。絶対に人と一緒に食事をとらず、彼が閉じこもった部屋からは恍惚の叫びが聞こえるといいます。そして、語り手は林田の秘密(特異体質と言うべきでしょうか)を聞かされます。

「命々鳥」(佐々木ゆう):幕末に世間を騒がせた水戸天狗党の十部慶士郎を市谷監獄に尋ねた新人の新聞記者は、彼が逃げ込んだあばら家にいたという女の話を聞かされます。その部屋にいた若い娘の告白と共に、狂気の物語が展開され――。

「新しい街」(間瀬 純子):昭和の高度成長期前夜、東京に建設された(いわゆるニュータウン)累星町は、戦前の建築家・川澄靜が設計した街並みでした。累星町出身の売れないゲームデザイナー、瀧口篤史は母に呼び戻されて実家へ帰りますが、兄の悦史の奇行に振り回されます。やがて、悦史は靜の娘である久世の影響を受けていることが判明しますが、街が本当に求めていたのは篤史でした。

オススメ度:☆☆☆☆


「妖女」の時に続き、今回も応募原稿にコメントしていただきました。「『プロの作品』に近いほど『よくできた』作品として、編集部内でも評価が高かったもの」の一つです(^^ ご披露しますので、興味のあるかたは、ご覧ください。→「芽殖弧虫」
ただし、ゲテモノ・寄生虫ネタですので、苦手なかたはご注意を(^^;

アート偏愛 (光文社文庫) - 井上 雅彦
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