日本怪奇小説傑作集3 ☆☆☆☆

(日本怪奇小説傑作集3 / 紀田 順一郎&東 雅夫:編 / 創元推理文庫 2005)

創元版「日本怪奇小説傑作集」の第3巻(最終巻)です。このシリーズの概要について、詳しくは第1巻の記事をご覧ください。
この第3巻には、昭和35年(1960年)から平成5年(1993年)までに発表された17作品が収められています。うち10作品は既読(読んだことすら忘れていたものも、かなりありますが(^^;)、初読みの作家は一人だけ(荒木良一さん)でした。既読作品に関する記事については、原則として既出のものを転載しています。ご了承ください。

「お守り」(山川 方夫):団地住まいの関口は、ある事件が元で、自分のアイデンティティを失い始めていました。“その他大勢”と“自分”とを分ける「お守り」として彼が持ち歩いていたのは――。角川ホラー文庫のアンソロジー「それぞれの夜」にも収録されています。

「出口」(吉行 淳之介):半強制的に、半ば自分から進んで、地方都市の一部屋に閉じこもっている(見張りはいますが、監禁されているわけではありません)語り手は、独りで遠出することもありました。ある町で、奇妙な出前専門の鰻屋(主人と若い娘がいるらしいのですが、入り口は釘付けされています)を見つけた語り手は、見張りと一緒に出掛けて宿を取り、その鰻屋から鰻を出前させて食べようと考えますが――。河出文庫「日本怪談集」にも収録されています。

「くだんのはは」(小松 左京):太平洋戦争中、空襲で家を失った勤労学生の語り手は、とある屋敷に部屋をあてがわれて暮らすことになります。そこには上品な女主人と病弱で姿を見せない娘、信心深い女中が住んでいましたが、なぜか庶民には手に入らないような白米や肉が食事に出るのでした。2階の部屋から出てこない娘に興味を抱いた語り手は、ついに室内を除いてしまいます。河出文庫版「日本怪談集」および角川文庫「模型の時代」にも収録されています。

「山ン本五郎左衛門只今退散仕る」(稲垣 足穂):あの「稲生物怪録」を下敷きにした怪異・妖怪小説です。稲生家の次男・平太郎(まだ十代半ばの少年です)は、「麦蔵屋敷」と呼ばれる稲生家の持ち家に住んで、守っていました。七月一日の夜、怪談噺の流れに乗せられて、平太郎は物怪が宿っていると言われている古塚に肝試しに出かけ、何事もなく戻ります。ところが、それ以降、麦蔵屋敷にはポルターガイストや百鬼夜行もかくやという怪異が立て続けに起こり、最初は面白がっていた友人たちも夜には寄り付かず、従者も暇を取ってしまいます。噂を聞いた道士や呪い師が憑き物を払ってやろうと様々な手立てを講じても、怪異は止むどころか、エスカレートするばかり。それでも平然と住み続ける平太郎の前に、一月後、物怪の親玉が姿を現します。河出文庫「日本怪談集」にも収録されています。

「はだか川心中」(都筑 道夫):ひなびた温泉地を訪れたカップルは、どの宿でも、空室があるにもかかわたず、宿泊を断られてしまいます。その理由とは――。光文社文庫都筑道夫コレクション“怪談篇”「血のスープ」にも収録されています。

「名笛秘曲」(荒木良一):天明の時代、信州の伊那谷に存在していた山村で起きた悲劇が記された古文書を手に入れた語り手は、地元の寺社を訪れ、古老から言い伝えを聞き出して、一篇の物語にまとめました。大手村の向かい側には、戦国時代に戦で敗れた落人が開いた新村がありました。いずれも自給自足の両村は共存してきましたが、いざ飢饉が起きると、備えがあった大手村ですが新村に救いの手を差し伸べることはありませんでした。新村の住人たちは大手村を襲撃しますが、戦いのさなかに聞こえた笛の音色は、両村に分かれて住む結ばれぬ定めの笛の名手の男女の死を覚悟した最期の曲でした。

「楕円形の故郷」(三浦 哲郎):東北から一緒に出てきた恋人に去られた主人公は、一鉢の盆栽に故郷の風景を見出します。フィニイ風の設定ですが、結末ははるかに暗いです。角川ホラー文庫「それぞれの夜」にも収録されています。

「門のある家」(星 新一):星さんには珍しい(笑)25ページもある作品。金欠病の青年、順一は、下宿へ戻る気も起きず町をさまよっていましたが、ある立派な屋敷の門がわずかに開いているのに気付きます。誘われるように入り込んだ順一は、屋敷に住む西家の養子・真二郎として迎えられ、新妻の友子や義母と暮らすことになります。ところが、外に出かけた義母や知子、使用人は、戻ってくるのですが、別人に変わってしまっています。それでも、同じ名前での生活が続いていきます。この生活に疑問や不満を持たない限り――。

「箪笥」(半村 良):能登地方を舞台にした連作怪異譚の一篇。昼間は普通の暮らしをしている漁師の家族は、なぜか夜になると箪笥のてっぺんに座っているのでした。

「影人」(中井 英夫):幻想作品連作集「人形たちの夜」に収録された一篇。早田裕は、失踪した末に自殺死体で発見された兄・隆之が残した暗号を頼りに、兄の妻である歌乃の消息を求めて、東北を旅していました。旅先で知り合った青年・宮下と愛を交わしながら、暗号を解いていく裕ですが、やがて宮下も姿をくらまし、自分が実体のない何者かに操られているのではないかという悪夢に囚われていきます。

「幽霊」(吉田 健一):一度でいいから幽霊に会ってみたいと考えていた男は、とある旅先の宿で若い女性の幽霊に出会います。他の誰の目にも見えない幽霊と親しく語り合い、共に旅を続けるうちに、幽霊は次第に実体を持ち始めていきます。河出文庫「日本怪談集」にも収録されています。

「遠い座敷」(筒井 康隆):山の頂上近くにある兵一の家で遊んでいた宗貞は、夕食もごちそうになったため、日が暮れてからの帰宅となってしまいます。夜の山道は物騒で恐ろしいのですが、山の麓の宗貞の家族が暮らす場所まで、屋敷の中の座敷から座敷を抜けて帰ることができると聞き、宗貞はほっとします(上流階級である兵一の屋敷はそれほど大きく、どうやら宗貞の家はその一画に住まわせてもらっているようです)。しかし、人けのない座敷には、それぞれ不気味な置物や絵が飾られており、宗貞は不安でパニックに陥ってしまいます。

「縄―編集者への手紙―」(阿刀田 高):締め切りが迫り、ホテルに缶詰めになっていても作品の構想が浮かばない新人作家は、自分が旅先で体験した奇妙な出来事を手紙に書いて、編集者に許しを乞おうとします。それは、自殺を決意したが踏み切れないでいる人間を手伝いに(?)現れる縄の話でした。

「海贄考」(赤江 瀑):17年の濃密な結婚生活の末、互いが互いを必要としていないことに気付いた夫婦は、全財産を現金に換えて旅に出ます。路銀が尽きた時に、この世に別れを告げようと考えていた二人ですが、鐘ヶ崎の岬の町へ入ると、こここそが終焉の地だと感じ、入水します。ところが、夫だけは仮死状態で漁船に引き上げられて息を吹き返し、妻は遺体で発見されます。男は、自分を救い上げてくれた土屋亀祐という漁師の家に寄宿し、「土屋のエビッさん(エビスさん)」と呼ばれるようになります。「エビス」とは、土左衛門をはじめ海からやって来る異形のものを意味している(荒俣宏さんの「ゑびす殺し」を参照)のですが、やがて男は自分が海に呼ばれていることに気付かされます。

「ぼろんじ」(澁澤 龍彦):明治維新前夜、兄が幕府軍に身を投じたため、自分にも官軍の追及の手が伸びるのではないかと考えた美男の侍、茨木智雄は女装して、まんまと官軍の目を逃れます。味をしめた智雄は、女装したまま身延参りに出かけます。一方、無頼漢どもから智雄に救われたことのある町娘・お馨は、夢のお告げに従って、男装して智雄を探す旅に出ていました。旅の途中で出会った虚無僧は、お馨にある印籠を渡します。河出文庫「ねむり姫」にも収録されています。

「風」(皆川 博子):語り手の兄が二階の部屋を与えた女は、鳥の剥製師でした。語り手は、女の留守中に部屋に入って鳥と同化しようとします。

「大好きな姉」(高橋 克彦):田舎の旧家の末っ子だった史郎は、10歳の頃、兄の嫁に来た19歳のサキを「サキ姉、サキ姉」と呼んで慕っていました。慕った挙句、非常識な行動に出てしまった史郎少年は、サキ姉の恐ろしい秘密を見てしまったと思い込んでしまい、結果、悲劇につながってしまいます。大人になった史郎は、法事のために20年ぶりに故郷を訪れ、サキ姉に迎えられます。角川ホラー文庫のアンソロジー「亀裂」にも収録されています。

姉妹編「平成怪奇小説傑作集」全3巻も刊行されています。いつか登場。

オススメ度:☆☆☆☆


平成怪奇小説傑作集3 (創元推理文庫) - 東 雅夫
平成怪奇小説傑作集3 (創元推理文庫) - 東 雅夫

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