幽体離脱殺人事件 ☆☆☆

(幽体離脱殺人事件 / 島田 荘司 / 光文社文庫 2000)

『吉敷竹史シリーズ』の第10巻です。
吉敷は、ふと立ち寄った有楽町の居酒屋で、京都の証券会社から出張してきたという小瀬川杜夫と知り合います。泥酔した小瀬川は家庭にも居場所がないことをさんざん嘆いた後、ホテルに送ってくれた吉敷に感謝して、名刺を渡します。数日後、三重県の二見浦で夫婦岩の注連縄に吊り下がって死んでいる男性が発見されます。東京の住所が記された免許証を所持していたことから、身元確認の要請が警視庁に入り、吉敷が担当することになります。男は坂上秋男というホームレスでしたが、なぜか小瀬川杜夫の名刺を持っており、そのことに吉敷は驚きます。坂上がたびたび面倒をかけていたという台東区の泥酔者保護所で尋ねたところ、たまたま小瀬川も坂上と同じ晩に泥酔して収容されており、その時に義理堅い小瀬川が名刺を渡したのではないかということでした。それでも、なぜ坂上が縁もゆかりもない二見浦で殺されていたのかという理由はわかりません。
ここから物語は一転し、東京の主婦・森岡輝子の一人称で進みます。大分出身の輝子は、京都の大学を卒業後、勤務医の夫と結婚して東京に住んでいます(夫の男性不妊が理由で、子供はいません)。輝子は、高校・大学と一緒に過ごした親友(?)小瀬川陽子からのたびたびの電話に悩まされていました。陽子は、小さな証券会社に勤める夫、中学生の息子と一緒に京都で暮らしていましたが、家庭的な悩みが高じたせいか、精神状態が不安定となり、甲斐性なしの夫と切り詰めなければならない生活に関する愚痴を延々と繰り返したり、抗鬱薬や古着を送ってくれるよう懇願したりしてきます。もともと八方美人で派手な性格だった陽子は、大分の高校時代、京都の大学時代を通じて、輝子が地味で消極的な正確なのをいいことにマウントをっとり続け、いいように利用してきました。ところが、輝子が医師と結婚したことで互いの生活レベルは逆転し、陽子は「恵まれた人間は不幸な人間を助ける義務がある」という自分勝手な考えから、さも当然のように輝子の援助を求めるようになっていました。そして、きっぱり断れない性格の輝子は、ずるずると陽子のペースに乗せられています。ただ、ここ数年、陽子の話には常軌を逸したような妄想めいた内容が混じっており、輝子は陽子が精神に異常を来しているのではないかと不安を感じていました。そして陽子は、つい最近の電話で、高校時代の同級生である津本治(当時、輝子が片想いしていた相手です)との不倫関係をほのめかしており、輝子はまさかと思いつつ、一抹の不安と恐怖を抱いていました。そして今日、陽子は、ぜひ差し入れを持って(笑)京都まで来てほしいと言い張り、輝子も、翌々日なら夫が海外出張するので泊りがけで行くことができる、と承知してしまいます。
ところが、夫の予定が1日早まったため、輝子も京都行を1日繰り上げることにします。陽子がなぜか指定したブルーフォックスの毛皮のコートをまとった輝子は、新幹線の待ち時間、東京駅の喫茶店でコーヒーを飲んでいるとき、ホームレス風の男に声をかけられます。男は「奥さんには不吉な相が現れている。自分は霊能者なので、誕生日を教えてくれれば悪運を払ってあげる」としつこく迫ります。もちろん輝子は相手にせず新幹線に乗り込みますが、なんと男は同じ車両に乗り込んできました。恐ろしくなった輝子は、男をまくために名古屋で途中下車してしまいます。この瞬間、輝子は天啓を受けたかのように三重県の鳥羽へ向かう決心をします。鳥羽は、津本治の実家があり、同窓会名簿によれば、治もそこで暮らしているはずでした。津本に会って、陽子が言っていた不倫関係がでたらめだと確認しよう――輝子は衝動的に近鉄特急に乗り込みます。しかし、例のホームレスも追ってきており、鳥羽駅で男に迫られた輝子は、ついに誕生日を教え、男はそのまま去っていきます。
訪ねあてた津本の実家は空き家になっていましたが、近所の人から、津本は二見浦で土産物屋をやっていると教えられ、輝子は躊躇なく二見浦へ向かいます。そしてようやく巡り合った津本は、妻の実家でつましく生活していました。もちろん、陽子の話はまったくの作り話でした。民宿も兼ねた津本の家に泊まることになった輝子ですが、疲れと安心したせいで酒を飲みすぎ、ふらふらと散歩に出かけます。ところが、立ち寄った商店街では、皆から非難の視線と言葉を浴びせられます。ブルーフォックスのコートを着た女が、子供を叩いたり商品の山を崩したり、タクシーの前に飛び出したり、迷惑j行為を繰り返していたというのですが、朦朧とした輝子は、記憶が二重になっているかのように感じ、混乱します。迎えに来た津本に砂浜へ連れていかれ、命令されるままに砂を掘ると、そこに埋まっていたのは津本の死体でした。そして輝子は気を失ってしまいます。
ここまで読むと、実は精神に異常を来しているのは輝子の方で、これまで一人称で書かれてきた内容はすべて輝子の妄想だったのではないかという気もしてくるのですが――。
翌朝、坂上秋男の他殺死体が夫婦岩の注連縄で発見されるのですが、同時に小瀬川杜夫の遺体も海から上がります。警察の見立てでは、小瀬川は妻・陽子の旧友である森岡輝子と不倫関係にあり、ふたりで無理心中を図ったようでした。輝子は海から引き揚げられ、命を取り留めましたが、奇怪なうわごとを繰り返し、精神異常を疑われているといいます。この報せを受けた吉敷は、納得できないものを感じ(居酒屋で会話した限りでは、小瀬川は不倫などできる性格ではありませんでした)、自費で(笑)三重へ向かって再調査を始めます。
地元の旗田刑事から、坂本の遺体からキャッシュカードが見つかったことを聞かされた吉敷は、入院中の輝子の話をじっくりと聞き、輝子につきまとっていたホームレスや輝子の“幽体離脱”の謎を、見事に解き明かし、真犯人の狡猾な殺害計画を暴くのでした。

オススメ度:☆☆☆


幽体離脱殺人事件 (光文社文庫) - 島田 荘司
幽体離脱殺人事件 (光文社文庫) - 島田 荘司

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