鎧なき騎士 ☆☆☆

(鎧なき騎士 / ジェームズ・ヒルトン / 創元推理文庫 1995)

J・ヒルトンと言えば、世間では「チップス先生さようなら」の作者として知られていますが、個人的には「学校の殺人」や「失われた地平線」の作者というイメージのほうが強いです(^^
この「鎧なき騎士」は、タイトルを一見すると中世騎士物語のように思えますが、実は20世紀初頭のロシア革命を背景にした、騎士道精神にあふれた(かどうかは微妙ですが)イギリス人男性(青年と言い切れないところも微妙)の数奇な運命を描いた冒険小説です。左記の“微妙”な点こそが、作品にリアリティを与えていると言えるかもしれません。

1929年秋、アイルランドの高級ホテルの一室で、49歳のA・J・フォザギル氏が息を引き取ります。彼は、東南アジアでゴム園経営に成功し、資産家となって帰国していましたが、その前半生は謎に包まれていました。その部分を解き明かすのが、本作のメインストーリーです。
エインズリー・ジャーグヴィン・フォザギル(作中ではイニシャルでA・Jと呼ばれます)は、田舎牧師を父とする10人兄弟姉妹の末っ子でしたが、両親の死後、叔父のヘンリー卿に引き取られます。ロンドンの金融街や出版界の名士であるヘンリー卿のもとで育ち、ケンブリッジ大学へ入ったA・Jは、ヘンリー卿の若い女性秘書フィリッパに意識しないまま恋心を抱いていましたが、彼がそれを自覚したのはヘンリー卿とフィリッパが歳の差婚を発表した時でした。傷ついたA・Jは、国外へ出ることに決め、「コメット」紙の海外特派員として日露戦争の取材に赴くことになります。
しかし、体をこわしたA・Jは特派員をお払い箱になり、シベリア鉄道でヨーロッパへ戻る途中、乗り合わせたロシア人校長の誘いでロストフ(黒海沿岸の町)で英語教師を務めることになります。彼はそこでヘンリー卿の死を知りますが、帰国することもなく、27歳の時、知己を得たブルジョワ青年ウィレンスキーの勧めで、首都ペテルスブルグへ赴き、出版社で翻訳者兼校正係に就任します。英国の諜報員スタンフィールドに目を付けられたA・Jは、英国のスパイ組織の末端として活動することになり、イギリス青年の身分を捨ててロシア人ウラノフに成りすまします。そしてA・J(ウラノフ)は情報を求めて反体制派のグループに接近しますが、爆弾テロを実行したアレクシス青年と懇意だったために当局に逮捕され、政治犯としてシベリアに流刑となってしまいます。彼が送られたのは、シベリアの奥地も奥地、レナ川下流沿いで北極圏に近い小村ルスコエ・ヤンスクでした。A・Jはこの地で10年近く、原住民族のヤクート人に囲まれて自給自足の生活を続けることとなります。
そして1917年、赤軍のコサック兵の一隊がルスコエ・ヤンスクを訪れ、革命が成功して皇帝が退位し、政治犯たちも流刑を解かれた報せをもたらします。落ち着いた態度でそのことを受け入れたA・Jは、満員の汽船でレナ川を遡り、イルクーツクで西行きのシベリア鉄道(もちろん難民たちで超満員です)に乗り込みます。飢えた母子のために食堂車に食料を盗みに出かけたA・Jは、一等客室の軍人を殺してしまい、行き掛かり上、遺体を始末して自分がその軍人アンドレイエフ大佐になりすますしかありませんでした。アンドレイエフはカーリンスクの人民委員に就任することになっており、A・Jも、その運命を受け入れるしかありません。A・Jは良心的な運営でカーリンスク市民の支持を得ますが、首都ペトログラードで急進派が力を握った影響で、過激なカシヴィンが人民委員に選ばれ、A・Jは補佐役に降格されますが、特に文句も言わず淡々と実務を果たすのでした。
やがて事態は急を告げ、白軍部隊が町へ迫ってきます。A・Jは流血を防ごうと降伏しようとしますが、白軍のほうが先手を打って(笑)降伏してきます。こうして、白軍が護衛してきたロシア貴族の一行もカーリンスクの牢獄に収容されることになります。その中に、落ち着いた凛々しい態度を崩さず、常に誇りを失わないアドラクシン伯爵夫人(未亡人ですが、まだ20代前半)がいました。A・J(アンドレイエフ大佐)は、カシヴィンの命令を受け、伯爵夫人をモスクワまで移送することとなります。
赤軍の命令系統は混乱しており、足止めを食ったA・Jと伯爵夫人は協力し合って脱走し、農民の親娘(ペテルとダリー)に変装してモスクワへ向かおうとします。しかし、前途は多難で、赤軍に出会えれば元々の使命を果たせますが(とはいえ、混乱具合を考えると一筋縄ではいきそうにありません)、白軍と出会えばダリー(伯爵夫人)は自由の身になれますがA・Jは銃殺されてしまうでしょう。サラトルスクという町で、毒入りの水を飲んでしまったA・Jは倒れ、ダリーと別れざるを得なくなります。回復してオブロモフという古参兵と行動を共にしたA・Jは、近郊の屋敷に潜伏していた逃亡貴族たちが捕らえられ、その中に著名なアドラクシン伯爵夫人もいることを知ります。人のいい看守の協力でダリーを脱出させたA・Jは、自分の使命も捨て、ダリーと共に自由を目指そうと決意します。
森へ逃亡したA・Jとダリーは、追手の兵士たちによる捜索をなんとか逃れて最寄りの鉄道駅ノヴォチェンスクにたどり着き、知り合った盗賊の少年から助言を受けて、満員の汽車に乗り込むことができました。しかし汽車は途中で故障して止まってしまい、二人は他の乗客とともに、近くの町ノヴァロダールへ向かいます。幸い、手持ちの現金に余裕があったため、法外な値で(笑)裕福なヴァリモフ夫人の家に泊めてもらうことができました。しかも、そこの娘がアドラクシン伯爵夫人の顔を覚えていたため、A・Jもアドラクシン伯爵と勘違いされて、篤いもてなしを受けることになってしまいます。そして、出発する際、ヴァリモフ夫人は、ロシア皇帝と血縁にあたるロシアンカ公爵家の末娘が赤軍による虐殺を免れ、執事のスタペンと一緒にサラトフで密かに暮らしていることを二人に告げ、できることならサラトフで幼い公女を訪ね、安全な場所へ連れ出してくれるよう懇願してきます。
心を決められないまま、再びA・Jとダリーは農民の父娘に化けてサラトフへ向かいますが、途中、赤軍の検問でダリーは手配されているアドラクシン伯爵夫人と顔が似ていると疑われてしまいます。取り調べのため拘束された二人ですが、良識派の士官プーシコフの意図的な(笑)ミスによって脱出し、材木運搬の川船に隠れてサラトフに到着します。スタペンの家を訪ねた際、二人は公女がチフスにかかって旅に耐えられない体調になっていることを知りますが、ダリーもまたチフスを発症してしまいます。A・J自身は、ダリーが回復し次第、公女を置いて二人だけで出発しようと考えていましたが、ダリーの考えは違っていました。
その後、紆余曲折の末(ここからはネタバレを防ぐため意図的にぼやけた表現にします)、ロシアを脱出して英国人だという身元を証明したA・Jは、10年近くにわたるゴム園経営で成功し、凱旋帰国するわけです。そして、かなりの金額を費やして調査した結果、難民としてアメリカへ渡った公女がメァリーという名で元気に暮らしており、たまたま養母と二人でヨーロッパ旅行をしていることを知ります。母娘がアイルランドに滞在していると聞いたA・Jは、いてもたってもいられず母娘が宿泊しているホテルに向かいます――。

おススメ度:☆☆☆


鎧なき騎士 (創元推理文庫 509-1) - ジェームズ・ヒルトン, 龍口 直太郎
鎧なき騎士 (創元推理文庫 509-1) - ジェームズ・ヒルトン, 龍口 直太郎

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