旅する女 ☆☆☆

(旅する女 / 小松 左京 / 角川文庫 1979)

小松左京さんと言えば「SF作家」というイメージが強いですが、SF的要素の薄い(あるいは、ない)怪奇幻想小説や抒情小説も書いています。タイトルの末尾に「女」がつく短篇シリーズなどが、その代表ですが(光文社文庫版「旅する女」は、「女」シリーズのコンプリート版です)。本書は、「女」シリーズ3篇など、SF要素の薄い5作品を収録した作品集です。

「秋の女」:トラベル・エッセイを書いている語り手は、取材旅行の合間に下関へ向かって、幼い頃、姉代わりに面倒をみてくれた女中のお咲を訪ねることにします。ところが偶然、山口市内で旧知の修道女シスター小此木と出会ったことから、名家の出身である宇治夫人を下関まで送っていくことになります。宇治夫人には人を引き込むような不思議な目力があり、そのせいか下関で別れた晩、語り手は平氏滅亡にまつわるリアルな悪夢を見ます。その後、お咲と再会した語り手は再び宇治夫人と出会いますが、なんと宇治夫人は戦時中にお咲が仕えていた屋敷の令嬢でした。

「旅する女」:旅慣れている清原がタヒチのホテルのバーで出会った日本人女性は、滝川夫人と名乗り、パリで幼い息子を失って(神隠しのようにいなくなったのだそうです)以来、世界中を旅しているのだと語ります。その物腰に、清原は、学生時代に同棲し、金銭的にも肉体的にも(笑)世話になった数歳上のホステスを思い出します。清原は、若さゆえの根拠のない自信のために彼女に去られてしまっていました。その後、ハワイで滝川夫人に思わぬ事件が起き、清原は思わぬ再会を果たすことになります。

「歌う女」:茂木は、少年時代を過ごした地方都市に反発を覚えつつ、念願のマイホームは故郷の隣町に建て、仕事から引退してノスタルジーに満ちた悠々自適の生活を送っていました。電車では時間がかかりますが裏山を越えれば故郷の町へ行けることに気付いた茂木は、戦前からあったフレンチレストランが移転して営業しているのを知り、そこへ通うようになります。そこでは、淵田あや子という素晴らしい歌い手が出演していました。しかし、あや子の後見人をしている江坂氏によれば、彼女にはプロの歌い手として致命的な欠点があるのだといいます。それと別に、純粋なあや子は恋に落ちると何もかも見えなくなって、恋に熱中してしまうのでした。そのことが、悲劇を招きます。

「黄色い泉」:妊娠している(かもしれない)妻と中国山地をドライブ旅行していた青年は、出会った古墳調査員から山に出る怪物(場所からいって「ヒバゴン」?)について聞かされます。その後、腹痛に襲われた妻は、岩陰で用を足そうとしますが、そのまま姿を消してしまい、そこには血痕が残っていました。妻が怪物にさらわれたのではないかと考えた青年は必死で探し回り、とある洞窟に入り込みます。そこでは、おぞましい光景が繰り広げられていました。青年は警察に駆け込みますが――。

「握りめし」:戦時中、学徒動員で工場で働いていた少年は、不良の上級生から、自分の幼馴染の女子生徒に恋文を渡すよう頼まれます。報酬は、当時は手に入らなかった銀シャリの握り飯でした。握り飯欲しさに何度もメッセンジャー役を務める少年ですが、どこか後ろめたいもやもやした思いを抱いていました。その思いの正体に気付いたのは、数十年も経ってからでした。

巻末の「解説」は、事前に目を通さないようにしてください。収録作品のネタバレがいくつか記述されています。

オススメ度:☆☆☆


旅する女 (角川文庫) - 小松 左京
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