狂桜記 ☆☆☆

(狂桜記 / 栗本 薫 / 角川文庫 2005)

副題が「大正浪漫伝説」となっているように、『六道ヶ辻』シリーズと同じ(架空の?)大正時代を舞台にしたゴシック・ホラー・ミステリです。

東京まで列車で1時間ほどの関東地方の地方都市・南吾野(海と山が近くにあるという描写から、湘南のどこかがモデルと思われます)の名家、柏木家の屋敷は、“中将桜”と呼ばれる立派な桜の古木があることから『桜屋敷』と呼ばれていました。そこには、柏木家の家族と親類たち、居候や食客、多くの使用人が暮らしており、庶民の家庭からは想像もつかない疑似大家族(合計28人)の生活が繰り広げられています。そればかりではなく、グリーン家やハッター家も真っ青(笑)という狂気を秘めた雰囲気も、深く根を下ろしていました。
主人公の中学1年生、幹彦は、柏木家の長女・絢香の次男です。幹彦の祖父の政隆(健在ですが隠居生活)は、4姉妹(いずれも吾野小町と称された美人揃い)と末っ子の長男・通弘をもうけましたが、家督を継ぐはずの通弘は出征して戦死し、絢香の夫・友孝が柏木家を実質的に運営しています。とはいえ、友孝は「仕事が忙しい」ため東京で生活しており、戻ってくることはほとんどありません。夫妻には4人の子供がおり、長男の達郎は東京で自立していいます。幹彦と妹の雪子は、他の子供たちと一緒に“子供部屋”で共同生活していますが、幼い桜子は母の絢香と一緒に暮らしています。柏木家には大勢の使用人がいますから、もちろん絢香が家事をすることはまったくなく、芝居だ展覧会だ発表会だと、毎日のように運転手付きの外車オースティンに乗って外出しています。柏木家の次女・伊都子は最初の夫と死別したあと高林家に嫁ぎ、先夫の子供・祥子と誠一(幹彦の年上のいとこ)は柏木家の“子供部屋”で暮らしています。三女の倫子は息子の聡と柏木家で暮らしており、四女の充枝は東京に嫁いで子供(幹彦のいとこ)が二人いますが、離れて暮らしているため疎遠になっています。さらに“子供部屋”には、幹彦が兄貴分と慕う二つ年上の杉本哲志(漠然と“親戚”とされていますが、具体的な血のつながりは不明)と、少し頭が足りない年下のまさ枝(出自は明らかにされていません)、運転手の息子の恵太がいました。また、離れに住む聖彦叔父(こちらも“叔父”と呼びならわされているだけで、具体的な血筋は幹彦にはわかりません)、伝染病のため土蔵に隔離されている少女・透子も、柏木家の一員でした。
幹彦は、イガグリ頭の中学生ながら、母親の絢香に似た美少年です。いつもおどおどしている聡にイライラし、ことある毎にいじめていました。それでも、友人がいない聡は同い年の幹彦に子犬のようになついていて、それがさらに幹彦を苛立たせるのでした。東京では怪人赤マントが子供をさらうという噂が都市伝説のように広がり、ついには吾野にも赤マントが出現したという目撃証言が出ます(証言の主は誠一でした)。それを聞いた聡は、ますます怯えてしまいます。
そんなある日、幹彦は、離れの近くで聖彦叔父に声をかけられます。それまで、大人の邪魔をしないようにと言われて、聖彦叔父の離れには近づいたことがなかった幹彦が聖彦叔父と話すのは初めてでした。画家だという聖彦叔父の書斎にある沢山の本に惹かれた様子の幹彦に、聖彦叔父はいつでも来るように勧めます。しかし、幹彦は聖彦叔父がもらした「あの人に似ている、聡よりも・・・」という言葉が気になっていました。そして、幹彦は、聖彦叔父が絢香の衣裳部屋から様々な着物を盗み出して(本人は「一時的に借りているだけだ」と言い張ります)、部屋中に広げていることを知ります。その後、絢香と倫子、そして聖彦叔父の複雑な愛憎関係を、幹彦は哲志から聞かされることになります。やがて、幹彦は母の着物を着て化粧をするよう聖彦叔父に命じられ(絵のモデルになってほしい、という理由はありましたが)、抵抗できず従うことになるのですが、自分の前に聡が同じようなことを聖彦叔父に強要されていたことに、幹彦は気付きます。聡から聖彦叔父の部屋へ行かないよう忠告された幹彦は、土蔵の近くで聡を問い詰めますが、土蔵から漏れてきた不気味な声に怯えた聡は、裏の林に逃げ込んでしまいます。夜になっても帰って来ない聡が気になった幹彦は、透子なら何か知っているかもしれないと土蔵に向かいますが、“中将桜”の太枝から首をくくってぶら下がっている聡を見つけることになります。
夏になり、聡の死のショックも薄れつつあった幹彦は、実の兄のように慕う哲志が来春から東京の高校へ行こうとしていることを知り、衝撃を受けます。“子供部屋”を出て自分の部屋をもらった幹彦は、悶々と過ごしていましたが、聖彦叔父の部屋で、さらにショッキングな体験をします。母の絢香の着物をまとっていた幹彦は、理性を失った聖彦叔父に手籠めにされてしまいます――そして、幹彦は部屋へ呼び出されるたびに、幹彦を絢香に擬するようになった聖彦叔父に汚されるようになるのですが、当然ながら誰にも相談できませんでした。気晴らしに登山に誘ってくれた哲志と山小屋で二人きりになっても、幹彦は打ち明けることができませんでした。
やがて、まさ枝が裏の林の中の河童池(河童が子供を引きずり込むという謂れがあります)に水死体となって浮いているのが発見されます。聡の時と同じく、生きているまさ枝を最後に見たのは幹彦で、まとわりついてくるまさ枝に「あっちへ行け」と河童池のほうへ突き飛ばしたのも幹彦でした。ますますふさぎ込むようになった幹彦は、聖彦叔父の部屋から帰る途中、ミイラのように全身を白い包帯で巻かれた姿の透子と出会い、初めて言葉を交わします。透子は、聖彦叔父と幹彦の秘密を知っていました。
その夏、東京では幹彦の兄・達郎がカフェの女給と心中し、祖父の政隆も老衰で世を去りました。まるで柏木家に崩壊の時が近づいているかのようでしたが、葬儀の騒ぎのせいか聖彦叔父からの呼び出しも途絶えています。またも聖彦叔父に呼び出されたとき、幹彦はある決意をもって叔父のもとへ赴きます。そして、中将桜が狂い咲く中、すべてに決着をつけたのは、死の天使とも言うべき透子でした・・・。

オススメ度:☆☆☆


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