宇宙多重人格者 ☆☆☆

(宇宙多重人格者 / リチャード・A・ルポフ / 創元推理文庫 1983)

先日読んだ「神の剣 悪魔の剣」の作者ルポフの長篇SF(ルポフの本業(?)はSFです)。タイトルが示すように主人公は多重人格者ですが、そればかりではなく、様々な世界・時間で、いくつものストーリーが錯綜して進んでいくメタフィクション仕立ての多重プロット作品でもあります。そのため、ストーリー紹介がとても難しいのですが(^^;

売れっ子アメコミ作家バディ・サトヴァンは、多重人格者を研究・治療するモートン・プリンス記念協会の病院に収容されていました。バディの精神には、ネオ・ナチを標榜する秘密結社「合衆国再生同盟」の総統である別人格ローランド・ウォッシュバーンが潜んでおり、同盟の副総統であるシュライバー(旧ナチの軍人で、戦犯になるのを免れて渡米してきています)が射殺された時、銃を握っていたのはバディでした。バディにはシュライバーを射殺した記憶はなく、精神鑑定の結果、バディは無罪となり、病院に収容されて治療を受けています。ベストセラーになっている彼のSFヒーロー・コミック「ダイヤモンド・スートロ」の連載を止めるわけにはいかず、女性秘書のタラが病院に日参してバディがまとめるプロットとネームを受け取り、アシスタントのウィリーが作画をして、穴を開けずに済んでいます。一方、ハリウッドでは大物プロデューサー、キャントロウィッツの手で「ダイヤモンド・スートロ」のテレビ(アニメ?)化やメディアミックス計画が進められていますが、スキャンダルを嫌うキャントロウィッツは、無罪になったとはいえ殺人を犯しているバディの名前がクレジットに出ることを好まず、バディを排除してウィリーを前面に出そうと画策していました。
そんな状況の中、バディが目覚めると、自分が未知の場所にいて、ヤクシ人と名乗る影のような異星人(?)数人に囲まれているのに気付きます。混乱したバディの人格はウォッシュバーンに交代し、再び戻ります。ヤクシ人によれば、ここは超科学を有していた太古の種族が建造したスラヴァスティと呼ばれる人工天体であり、宇宙のすべてを解き明かす巨大コンピュータ(ヴィルス・インぺリウムではない(^^;)が存在しています。自分が置かれた状況にショックを受けたバディは気を失い、次に現れたのは、バディの主治医エットマン医師も知らなかった第三の人格、サンフランシスコ在住の鉱山技師オーバーン・スートロでした。オーバーンは優秀な技術者ですが、定期的に数日から数週間の記憶を失くすことがあり、悩んでいました(もちろん、その間はバディまたはウォッシュバーンとして行動しているわけです)。技術者であるオーバーンは、ヤクシ人が伝える情報やスラヴァスティの諸施設について、柔軟に理解して受け入れることができました。そしてオーバーンは、コンピュータは宇宙が滅びつつあることを察知し、それを阻止できる唯一の人物として地球人バディ・サドヴァン/ローランド・ウォッシュバーン/オーバーン・スートロを指名したと聞かされます。
これらと並行して、二つの物語が描かれます。
第二次世界大戦前夜のオランダでは、ユダヤ系の少年ピーター・ヴァッハテルがナチのユダヤ人狩りに遭い、両親と引き離されて収容所へ送られます。ピーターの宝物は、アメコミが載っているボロボロのパルプ雑誌でした。収容所でピーターは、次々に連れて来られる同胞がシャワー室(実はガス室)へ連れて行かれたり、東の理想郷(実はアウシュヴィッツ)に列車で送られるのを、羨ましがってながめています。
こちらは、バディ原作、ウィリー作画の「ダイヤモンド・スートロ」の新作のストーリーです。世界的に優秀な科学者たちが次々と失踪していました。そして、世界一の頭脳の持ち主とも言える天才科学者アーノード・サブーティも、仇敵である悪の科学者ドクター・アヌビスの手で拉致されてしまいます。アンデス山中の秘密研究所へ連れ込まれたアーノードは、ドクター・アヌビスの妖艶な娘アフライテの色仕掛けに陥落して(笑)、アヌビスの指示通りに働くことを受け入れます。アフライテは宇宙艇を操縦し、アーノードを組織の秘密基地へ連れて行きます(このへんの太陽突破シーンや出現する怪獣、秘密基地が置かれた惑星の正体など、通俗SFファンならゾクゾクする“お約束”のてんこ盛りです。当然、作者は確信犯でしょう)。ここでアーノードは正体を現し、アフライテも味方につけて、宇宙のすべてを解き明かすことができる(はて、どこかで聞いたような(^^;)究極の装置を完成させます。
さて、ヤクシ人の手でスラヴァスティから地球に戻されたバディは見知らぬ場所で目覚め、なんとかタラに連絡を取って迎えに来てもらい(ついでにモーテルでねんごろになって(^^;)、モートン・プリンス記念病院へ戻りますが、そこには驚愕の事実が待っていました。なんと、バディと一つの肉体を共有しているはずのウォッシュバーンが別人として実在していたのです。エットマン医師も目を白黒(笑)。ショックを受けたバディは、再びスラヴァスティで目覚めますが、そこにはウォッシュバーンと、初対面の(笑)オーバーンが、それぞれ肉体を有して存在していました。ヤクシ人が使用した転送装置の原理を理解したオーバーンの説明で、これらの怪現象の謎は解明されます。しかし、3人(?)は、ヤクシ人が要請した通り、宇宙壊滅の危機を救わなければなりません。悩むバディの目の前に、自分が創造したヒーロー、ダイヤモンド・スートロとその分身、さらに美女アフライテまでが実体化します。これが何を暗示しているのか――宇宙を救う鍵を握っているのは、3人の心の奥底に眠っているオリジナル人格でした。

オススメ度:☆☆☆


宇宙多重人格者 (創元推理文庫 (660‐2)) - リチャード・A・ルポフ, 均, 安田
宇宙多重人格者 (創元推理文庫 (660‐2)) - リチャード・A・ルポフ, 均, 安田

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