レモン色の戦慄 ☆☆☆☆

(レモン色の戦慄 / ジョン・D・マクドナルド / 角川文庫 1983)

『トラヴィス・マッギー・シリーズ』の第16長篇です。
とはいっても、現代では、フロリダの“もめごと処理屋”トラヴィス・マッギーをご存じのかたは少ないでしょう(^^; 藤原宰太郎さんの「世界の名探偵50人」の一人ではあるのですが、日本では不遇のようです。なんせ、ずっと名前だけは知っていたのですが、本が見つからず、今回ようやく初めて読めたわけで。作者ジョン・D・マクドナルドに関しても、十代の頃にドキュメント風の犯罪小説「夜の終り」(創元推理文庫)を読んだだけで、他のマクドナルド姓の作家たち(ロス、フィリップ、ジョージ、イアンなど)と比べると、なじみが深いとは言い難い状況です。本シリーズについても、昭和の時代に角川文庫、ハヤカワポケットミステリ、その他からバラバラに出版されていて、体系的に紹介されていたとは言えません。
ですが、本作を読んでみると、フーダニットの謎解きあり、ハードボイルドな展開あり(登場人物紹介に載っている半数はラストまで生き残れません)、ピンクな(笑)恋愛要素あり、コクのある小説に仕上がっていました。

トラヴィス・マッギーは、フロリダのフォートローダデールに係留してあるヨット“バスティッド・フラッシュ”号を根城にしている自由人で、海岸を訪れるセレブなご婦人たちを“接待”することで生計を立てています。ところが、周辺でなにかトラブルが起きれば、持ち前の好奇心と正義感で事件に介入し、解決に導く(ついでに金銭的利益その他をせしめる)ことから、“もめごと処理屋”の異名を取っています(フィリップ・マーロウと同様、「トラブル・イズ・マイ・ビジネス」でしょうか)。一見すると強面の荒くれ男ですが、実は考え深い哲学者タイプのマイヤーが、マッギーの親友かつ相棒です。
深夜、バスティッド・フラッシュ号を訪ねてきたのは、旧知の女性キャリー・ミリガンでした。キャリーとは6年前、レイプされかけていたのを助けた縁で深い仲になったこともありますが、その後、キャリーが結婚したため疎遠になっていました。やさぐれた様子で現れたキャリーは、10万ドル近い大金をしばらく預かってほしい(謝礼は1万ドル)、1ヶ月経っても取りに戻らない場合は、妹のスージーに渡すように頼むと、翌日には姿を消しました。2週間後、マイヤーが、ベイサイド市でキャリーが交通事故死したという新聞記事を見つけます。単なる事故とは思えないマッギーは、事件を調査するため、マイヤーと共にバスティッド・フラッシュ号でベイサイドへ向かいます。
ベイサイドの高級マリーナ、ウェストウェー・ハーバーにヨットを乗りつけると、生き生きとしたオーナー夫人のシンディと、有能そうな若者ジェイスンが迎えてくれましたが、遅れて現れたオーナーのキャルは泥酔しており、マッギーとシンディが“できている”と因縁をつけて、殴りかかってきます。ジェイソンの通報で駆け付けた警官がキャルを取り押さえ、連行していきますが、警察署で体調が急変したキャルはそのまま入院し、数日後に心不全で死亡してしまいます。
マッギーとマイヤーは、キャリーが務めていたスーペリア建材を訪ねますが、経営者のハズコムは会社をたたむ準備をしていました。聞けば、共同経営者のオマハが会社の資金を根こそぎ持って行方をくらましてしまったため、倒産を待つばかりだということでした。そして、ハズコムの考えでは、経理を担当していたキャリーも一枚かんでおり、用済みになったキャリーをオマハが事故に見せかけて始末したのではないかと考えていました。念のためオマハの妻クリスを訪ねると、そこには地元の若手弁護士フレッド・バン・ハーンがいて、いかにも情事の直後といった雰囲気でした。
続いて二人は、キャリーが住んでいたアパートを訪ねます。経営者のウォルターは世話好きの熟年男性で、若者たちに優先して部家を貸し与え、仕事の世話などもするため、住人たちに慕われていました。中でもキャリーは特別扱いされていたようでした。しかし、姉の死を知らされて駆けつけた妹スージーによると、キャリーが3人のルームメイト(一人はスーペリア建材の同僚ジョアンナ)と暮らしていた部屋が、侵入した何者かに荒らされていました。マッギーは、侵入者は例の10万ドルを探していたのだと直感します。
さらに、キャリーが事故死した現場を見に行ったマッギーとマイヤーは、事故の第一発見者の老人を見つけ出し、詳しい状況を聞き出します。自分の車(ダットサン)を運転していたキャリーは、ガス欠に気付き(実際、路肩に停められていたダットサンにガソリンは残っていなかったそうです)、電話を探そうと道路に出ようとして、出会いがしらのトラックに轢かれたらしいということでしたが、マイヤーは疑問点に気付きます。
キャリーの葬儀の後、ジョアンナが密かにマッギーを訪ねてきて、密談を持ちかけてきます。彼女の話では、キャリーはマリファナの密輸に手を染めており、たびたびルームメイトに高級マリファナを分けてくれたといいます。そしてジョアンナはマッギーのことを、キャリーの後釜を探しに来た密輸組織の人間だと誤解しており、自分を使ってほしいと売り込みにきたのでした。この情報から、マッギーはアパートのオーナー、ウォルターがマリファナ密売の元締めで、住人の若者たちを使って売りさばいていたと見当をつけ、プロの密輸組織の人間だと名乗ってウォルターを脅し、あっさりと白状させます。バハマからマリファナを密輸していたのは、釣りが趣味だと言ってたびたびクルーザーで外洋へ出かけていたオマハとキャルでした。
やがて、マッギーとバスティッド・フラッシュ号を悲劇が見舞います。ヨットを訪ねてきたジョアンナが、差入れのデザートの箱を開けようとした瞬間、箱が爆発してジョアンナは即死、マッギーも重傷を負って5日間も生死の境をさまようことになってしまいます。軽症で済んだマイヤーと、シンディが交代で付き添い、ようやく意識を取り戻したマッギーは、地元警察のスコーフ警部の訪問を受けます。爆弾は、ジョアンナのアパートに届けられたプレゼントで、犯人はジョアンナとルームメイトたちを狙ったのだと思われました。また、病死したと思われていたキャルは、鋭い針のようなもので心臓を突き刺されたために内出血で死んでおり、明らかに他殺だったといいます。マッギーは、ベイサイドに来た本当の理由を明かし(スコーフは、キャリーの事故死には疑いを持っていませんでした)、ウォルターのマリファナ密売に関する情報を提供して、今後も協力し合うことを約束します。退院したマッギーは、マリーナを訪れてシンディにお礼を言うとともに、スコーフに聞かされたキャルの死の真相を明かします。そして、慰め合っているうちに、二人はねんごろに(笑)なってしまいますが、窓の外では何者かが屋内をうかがっていました。
マッギーが動けないでいる間、マイヤーは精力的に動き回って情報収集に努めていました。若手弁護士バン・ハーンは、スーペリア建材やウォルターの顧問弁護士を務めており、地元では辣腕で知られています。そして地元の名士であるシャーマー財閥の令嬢ジェーンと婚約しており、政界にも打って出る予定でした。一方、バン・ハーンは女と見れば見境がなく、誰でも口説くという悪癖がありました。ハンサムで口が上手いため、たいていの女性は陥落してしまいますが、言うことを聞かない相手は腕ずくでもものにしてしまう、というのがバン・ハーンの流儀で、泣き寝入りしている女性も多いようでした。シンディも言い寄られたことがありますが。一発かまして退散させたそうです。しかし、スージーまでが仕事がらみで巧妙に誘い出され、無理やり手籠めにされたということを聞いて、マッギーは激高します。また、バン・ハーンに自家用飛行機を飛ばす趣味があると知ったマッギーは、ウォルターやオマハのマリファナ密輸にバン・ハーンも一枚かんでいるのではないかと考えていました。
マッギーの動きは、シャーマー家も気にしているようで、当主がマッギーを呼び出し、大金を積んだり脅したりして町から出ていくように交渉を持ちかけてきますが、もちろんマッギーは聞く耳を持ちません。マッギーはバン・ハーンと直接対決しようと彼の牧場に乗り込みますが、待っていたのは一つの死体と、殺意をむき出しにして襲いかかるバン・ハーンでした。なんとか切り抜けて、バン。ハーンとの間では決着をつけたマッギーですが、彼の推理によれば、事故死を装ってキャリーを殺した犯人は別にいました。マッギーはスコーフ警部に自分の推理を語り、一緒に犯人と対決します。

オススメ度:☆☆☆☆


レモン色の戦慄 (1983年) (角川文庫―トラヴィス・マッギーシリーズ) - ジョン・D.マクドナルド, 篠原 慎
レモン色の戦慄 (1983年) (角川文庫―トラヴィス・マッギーシリーズ) - ジョン・D.マクドナルド, 篠原 慎

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