影を踏まれた女 ☆☆☆☆

(影を踏まれた女 / 岡本 綺堂 / 光文社文庫 1988)

光文社文庫版岡本綺堂怪談集(旧版)の2冊目です。
江戸期から大正末期までを舞台とした15作品が収録されていますが、「異妖編」以外はすべて、「青蛙堂鬼談」を中心に、ちくま文庫版「岡本綺堂集」と重複しています。

<青蛙堂鬼談>
「青蛙」という俳号を持つ多彩な趣味人、梅沢氏が、好事家の友人たちを集めて、一夜、怪談会を実施します。そこで語られる怪異な話を紹介する、という体裁でまとめられた12篇。

「青蛙神」:明代の末、武人の張訓は、妻の助言に助けられることが多かったのですが、ある日、妻が三本足の蝦蟇(青蛙)を拝んでいるのを見て、思わず斬り殺してしまいます。それからというもの、張訓の身辺には奇怪なことばかりが起こります。

「利根の渡」:享保年間、利根川の渡し場に一人の座頭が立ち、来る人ごとに「野村彦右衛門はいないか」と尋ねる日々を繰り返していました。人と接しようとしない座頭ですが、渡し場に詰めている平助老人の小屋で暮らすことになります。彼は、すばしこい魚の眼に針を突き通すという技の持ち主でしたが、病に倒れ、死に際に自分の半生を平助に語ります。

「兄妹の魂」:語り手は、故郷へ帰って新興宗教の講師になった赤座とその妹との間で親しく文通を続けていましたが、ある時からぱったりと便りが途絶えてしまいました。その後、妙義山の宿に滞在していた語り手は赤座の訪問を受けますが、赤座はすぐに山中に姿を消し、翌日、死体となって発見されますが、その男は別人でした。しかし、死者と赤座兄妹との間には、奇怪な因縁がありました。

「猿の眼」:骨董集めが趣味だった語り手の父は、あるとき露店で木彫りの猿の面を購入します。その面は離れの部屋に飾っていましたが、そこに泊まった客はみな、猿の眼が青く光るのを見て肝を潰すのでした。その後、猿の面は何者かに盗まれますが、やがて出入りの骨董屋が「掘り出し物」だと言って、同じ猿の面を持ち込んできます。先日読んだ軌道の短篇「兜」(「鷲」に収録)と同様、真相は闇の中です。

「蛇精」:様々な蛇が出没する山村では、特に家畜や赤ん坊を襲う蟒蛇(うわばみ。ニシキヘビのような大蛇)が恐れられていました。屋根屋の吉次郎はうわばみ退治の名人でしたが、そのせいで縁談にも恵まれず、ようやく村長の世話で、病気持ちの年増女房をもらいます。その後、手強いうわばみと対決して精魂尽き果てた吉次郎は、女房も追い出して独り、小屋にこもりますが――。

「清水の井」九州の大百姓・由井吉左衛門には、二人の年頃の娘がありましたが、ある時から二人とも体調を崩していました。ところが、月の明るい夜中になると姉妹揃って庭の古井戸を覗き込んでいるのでした。水面に二人の美男が映っているというのですが――井戸をさらってみると、二つの古い鏡が見つかります。その鏡には、平家の落人に関わる因縁がありました。

「窯変」:日露戦争に従軍していた新聞記者らが、遼東近くの小さな村に一夜の宿を頼もうとすると、通りかかった若者が「家有妖」と言って立ち去るよう勧めます。構わず泊まることにしますが、主の老人は、この家の竈にまつわる無気味な話を聞かせます。以前の家主は、乱から逃れてきた旅人を竈に匿いますが、関わり合いを恐れて焼き殺してしまいます。その後、その竈で瓦を焼くと、みな人間の足や腕や顔のように歪んでしまうのでした・・・。

「蟹」:越後の商店の主人が友人たちを招いて酒宴を催しますが、突然来客が増えたため、台所は困り果てていました。特に主人の大好物の蟹を人数分揃えなければならず、蟹を探しに出た下男が、見知らぬ少年から蟹を手に入れてきました。しかし、食卓に出た蟹を見た客の占い師が危険を告げ、調べたところ、主人の皿に載っていた蟹を食べた犬は死んでしまいました。その後、蟹の祟りか、周辺に怪死する者が続き、ついに主人は蟹恐怖症になってしまいます。

「一本足の女」:大久保相模守の家来の大滝庄兵衛夫妻は、物乞いの少女が片脚なのを可哀そうに思い、連れ帰って中間の与一の家で養わせることにします。お冬と名付けられた少女は、美しい娘に成長しますが、与一や庄兵衛の周囲には不幸が連続するようになります。お冬は人血をなめたり飲んだりするのを好むようになり――。

「黄いろい紙」:タイトルの「黄いろい紙」とは、明治時代にコレラが流行した際、患者が出た家に貼られた警告書のことです。皆がコレラを恐れているにもかかわらず、「コレラになりたい」と騒ぐ女房がいました。

「笛塚」:若侍の喜兵衛は笛をたしなんでおり、自分の演奏に自信を持っていました。ある晩、妙なる調べを耳にして近づいていくと、うらぶれた浪人が笛を吹いていました。石見弥次右衛門と名乗る相手の笛は、まさに名笛と呼べるものでしたが、その由来は血に染まっていました。どうしてもそれがほしくなった喜兵衛は、石見弥次右衛門を闇討ちにして笛を奪おうと考えますが――。

「龍馬の池」:写真道楽の語り手は、白河へ旅した折、「龍馬の池」と呼ばれる絶好の撮影スポットがあると聞かされます。かつて池のほとりには生きているかのような木馬が立っていましたが、大水で流された途端、周囲の村に災厄が続くようになりました。守り神を再建しようと考えた村人は、旅の彫刻師・祐慶に頼んで木馬を彫らせます。祐慶は、木馬と共に少年をモデルとした木像も彫り上げますが、お披露目のとき、モデルとなった白馬と少年は神隠しにあったように姿を消してしまいました。そんな伝説を聞いて池に出かけた語り手と友人ですが、案内の若者が伝説と同じように失踪してしまいます。

<近代異妖編>
「青蛙堂鬼談」の続編と言える怪談集。うち3篇が収録されています。

「異妖編」:「新牡丹燈記」(オリジナルの「牡丹燈記」を江戸を舞台に翻案したもの)、「寺町の竹藪」(姿を消した幼女お兼は死体となって発見されますが、姿を消す直前、運命を暗示するような謎めいた言葉を遺していました)、「龍を見た話」(大嵐の中、大川の濁流から這い上がって来た怪物の正体は――)という三つの怪異譚で構成されています。

「月の夜がたり」:七月の二十六夜(空いた貸家に出没する謎の老婆)、八月の十五夜(年に一度だけ現れる亡霊)、九月の十三夜(古屋敷の庭に祀られていた十三夜稲荷から見つかった無気味なもの)にまつわる、三つの怪異譚が語られます。

「影を踏まれた女」:自分の影を他人に踏まれることを恐れる娘おせきは、ついに日中や月夜は一切外出しないようになってしまいました。よんどころない用事で夜に出かけたおせきは、許嫁の要次郎に送ってもらう途中、野良犬に影を踏まれてしまいます。やがて、おせきは憑き物に取り憑かれたかのように具合が悪くなりますが、その影は既に人の姿ではありませんでした。

オススメ度:☆☆☆☆


影を踏まれた女 (光文社文庫) - 岡本 綺堂
影を踏まれた女 (光文社文庫) - 岡本 綺堂

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