カインの市 ☆☆☆

(カインの市 / ケイト・ウィルヘルム / サンリオSF文庫 1978)

「翼のジェニー」の作者ウィルヘルムの長篇は、本作以降、ヒューゴー賞受賞の代表作「鳥の歌いまは絶え」など数冊がサンリオSF文庫から刊行されていましたが、その後が続かず、ようやく先日「鳥の歌いまは絶え」が創元SF文庫で復刊されました。今後、未訳作品も紹介されることを期待しましょう。
本作は、長篇としては日本初紹介作です。ずっと邦題の読み方を「カインのいち」だと思っていましたが、原題(City of Cain)を見て「カインのし」だと初めて気づきました(^^;

主人公ピーター・ルースは、ベトナム戦争で頭部に重傷を負い、再起不能と目されながら3年をかけて昏睡状態から脱し、今は歳の離れた兄エドの家族と同居して社会復帰の道を模索しています。大学院への復学を目指す一方、合衆国上院議員であるエドの補佐も選択肢として提示されてますが、脳に損傷を負っているピーターは、不眠症や幻聴に悩まされていました。エドの妻リルは、ベトナム帰還兵が精神を病んで銃の乱射事件を起こしていることなどから、ピーターに対して不安と猜疑の目を向けており、それがわかるだけにピーターも居心地の悪い思いを味わっています。
エドに誘われて参加したデュークス上院議員主催のパーティで、ピーターは国家の秘密計画として進行中の地下防衛施設(DEDF)プロジェクトについて耳にします。彼のパートナーとして参加した有能な女性D・C・マクマヌスや、会場で出会ったジャーナリストのプライヤーによれば、この計画を進めているのはエドやデュークスといった上院メンバーと陸軍のフォード将軍、ノーベル賞科学者グレインジらでした。ピーターは学生時代、グレインジのもとで学んでいました。
ある晩、激しい頭痛と痙攣発作に襲われたピーターは、自分を手術した脳外科医クランプ博士を訪ねます。ますます激しくなる幻聴や悪夢(自分が知っている人物たちが、自分の知らない話題についてしゃべっていますが、後にその内容が事実だと判明することもあります)について相談しても、クランプは首をひねるばかりでした。やがて、クランプに精神科医の診断を受けるよう勧めてきますが、精神科医のレイ博士は政府の関係者で油断がならない印象でした(ピーターには親身に接してくれるクランプも、気が進まなかったのだという態度を崩しません)。
パーティ以来、D・C・と深い仲になっていたピーターは、D・C・の部屋でDEDF計画に反対している活動家集団(SAFE)の顔写真を見る機会がありましたが、その中のひとりに目を止めたピーターは驚きます。グレインジの研究室一の才媛で、ベトナム出征前に恋人だったルーシーだったからです。ピーターはSAFEの事務所を訪ね、ルーシーと再会しますが、ピーターの態度や立場を誤解していたルーシーは冷ややかな態度のままで、SAFEのリーダーである黒人青年カールもあからさまに敵意を見せます。ピーターは必死に説明し、なんとか誤解を解くことに成功しますが、DEDF計画の詳細を聞くにつれ、ピーターは、自分が幻聴だと思っていた内容(エドやデュークス、グレインジの密談)が事実で、彼ら計画推進派が建設を目論んでいるのは単なる地下要塞ではなく、非常時に合衆国要人だけが避難する地下都市(一般市民は見殺しです)だと気付きます。実際、ピーターは、脳内の視床部に食い込んだ爆弾の破片の影響で、周囲の人物の心の中が読めるようになっていたようです。
それを知ってか知らずか、グレインジは甘言を弄してピーターを自分の手のうちに取り込もうと計り、レイ博士もそれに加担して、ピーターがどこまで知っているかを見極めたうえで、危険になりそうだと判断したら抹殺も辞さない様子でした。エドと袂を分かったピーターは、SAFEに協力する覚悟を決め、スクープをものにしようと接近してきたプライヤーも協力を申し出ます。グレインジ一派に追跡を受けたピーターは良識派の上院議員クヌートに匿ってもらいますが、外へ出た途端、狙ってきた車にはねられてしまいます。しかし、クランプの病院に運ばれたピーターは、クランプによる脳手術を受けることになります。果たして手術は成功するか、その結果、ピーターはどうなるのでしょうか・・・。

オススメ度:☆☆☆


カインの市 (1978年) (サンリオSF文庫) - ケイト・ウイルヘルム, 日夏 響
カインの市 (1978年) (サンリオSF文庫) - ケイト・ウイルヘルム, 日夏 響

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