アナクロニズム ☆☆☆

(アナクロニズム / 種村 季弘 / 河出文庫 1985)

アナクロニズム(anachronism、略称アナクロ)は、「時代錯誤」と訳されます。「時代遅れ」といったネガティブな意味合いで使われることが多いですが、本書では「時代の趨勢や流行に関係なく、存在し続けている事物や、そういった思想を体現している人々」というテーマに沿って、古今東西の文献資料を渉猟しつつ、確固として異彩を放っている「アナクロ」な人物や事象を紹介するエッセイです。本書は、昭和44~45年にかけて雑誌「ユリイカ」に連載されたものを原型とし、似たようなテーマのエッセイをいくつか追加したものです。
澁澤龍彦さんが好んで書くテーマと重複していますが、澁澤さんがディレッタントの視点で自由かつ伸び伸びと筆を走らせるのに対し、種村さんはややアカデミックに分析を加え、硬めの論文調になっている印象を受けます。いい悪いではなく、好みの問題ですが、個人的には澁澤さんのエッセイのほうが受け入れやすいです(^^
収録されているエッセイを簡単に紹介していきます。

「蘆原将軍考」:明治から昭和初期まで、松沢病院(精神病院の代名詞)に入院していた空前絶後の奇人の肖像。同じ題材の小説が、出久根達郎さんの「古本綺譚」に収録されています。
「地球空洞説」:地球内部は中空だという説は、昔から唱えられていますが、その中には、人類が住んでいるのは地球の表面ではなく、中空になった内側の凹面部だ、という説があるそうです。
「新・地球空洞説」:ボーダーランド文庫版「地球空洞説」を読めば、これがどれほどアナクロ(ネガティブな意味で(^^;)か、よくわかります。
「人間栽培論」:SFの「人類家畜テーマ」ではありません。錬金術師たちによるホムンクルスの製法のことです。
「小児十字軍」:成年の十字軍の他に、子供たちだけによる十字軍が自発的に結成されたことが、何度かあるそうです。
「モーゼの魔術」:「モーゼの五書」とは旧約聖書の最初の5巻(創世記から申命記まで)のことですが、「第六の書」「第七の書」など、偽書が魔法書として売り出されているそうです(しかも「モーゼ」と名が付くだけで、売れるらしい)。
「壜の中の手記」:手紙を壜に入れて海に流したとしても、目的の相手に届くことは、まずありません。でも、ここに書かれているのは例外で――。
「ロボット考」:SF的な「ロボット」ではなく、からくりを用いた「自動人形」がテーマです。
「空飛ぶ円盤」:中世でも不思議な飛行物体は空に出現していますが、当然、当時の人々は「宇宙人の乗物」とは考えませんでした。
「血液嗜好症」:生きるために血を吸う吸血鬼と、流れる血を見て性的興奮・快感を得る血液嗜好症とは、似て非なるものです。
「文学的変装術」:つまり、でたらめを書いても、内容や時世によって真実と受け取られてしまうこともある、ということです。
「少女流謫」:シンデレラも白雪姫もラプンツェルもアリスも、童話の主人公の少女たちはみな、同じ運命に見舞われます。
「蛇と舞踏者」:中世ヨーロッパでは(日本でも?)、何度も民衆の間で狂気のような集団舞踏が発生しています。
「聖指話法」:フリーメイソンなど、特定の集団(秘密結社に限らず、職能集団でも)には、内々に意思疎通するための指話法があります。
「奇行奇人綺譚」:他の人と異なる「こだわり」を持ち、それを貫き通す人は、すべて「奇人」と扱われる可能性があります。
「奇術師入門」:壮大な奇術の仕掛けは、師匠から弟子に伝授されるより、無関係の相手に盗まれて伝わるほうが多い(しかも、うまく伝授される)ようです。
「第三の眼」:チベットのラマ僧が自ら半生を描いた、との触れ込みでベストセラーになった書物の名前。でも著者はチベットには縁もゆかりもなかったことが、後に明らかになります。
「女の決闘」:西洋では、女性同士の決闘(もちろん剣や銃を使った正式のもの)や、男女間の決闘も、少数ながら行われていたようです。
「再説・蘆原将軍考」:蘆原将軍は妄想の中で日本国籍を脱し、蘆原帝国の帝となっていました。

オススメ度:☆☆☆


アナクロニズム (河出文庫) - 種村 季弘
アナクロニズム (河出文庫) - 種村 季弘

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