魔術師を探せ! ☆☆☆☆

(魔術師を探せ! / ランドル・ギャレット / ハヤカワ・ミステリ文庫 2005)

作者ギャレットの代表作『ダーシー卿シリーズ』の日本オリジナル中編集です――とはいっても、長篇「魔術師が多すぎる」は、読んだつもりだったのですが、調べてみると未読でした(^^; どうも「~が多すぎる」シリーズ(シリーズじゃありません)はいくつもあるので(西村京太郎さんの「名探偵が多すぎる」、ギャリコの「幽霊が多すぎる」、スタウトの「料理長が多すぎる」等々)、読んだ気になっていたようです。ちなみに、他に読んでいるギャレット作品は、ハードなSF(「ハードSF」ではなく「内容がハードなSF」(^^;)「銀河の間隙より」と、ご夫人のV・A・ハイドロンとの共作「レイツカールの鋼鉄」(異世界転生冒険ファンタジー『ガンダラーラ・サイクル』の第1作という触れ込みでしたが、悪夢の(笑)「角川Fシリーズ」だったため、あえなく1巻のみで打ち切りとなってしまいました)の2作ですが、読んだのはいずれも学生時代。ですので数十年ぶりにギャレット作品を読んだことになります。

本シリーズの舞台となるのはパラレルワールドのヨーロッパで、こちらでは科学が発達せず、スピリチュアルな魔術が世の中を支える中核として体系的に確立されています。歴史も、こちらの世界とよく似ていますが、作品の背景をなす英仏王室は微妙に違った流れに乗っています。ノルマンディ公爵リチャードの主任捜査官ダーシー卿が、リチャードの命令を受けて、凄腕の魔術師マスター・ショーンとともに難事件に挑むというのが定番のパターン。裏表紙の説明文に「ワトスン役マスター・ショーン」と書いてありますが、これは完全な間違いです。マスター・ショーンは魔術の専門家で、アドバイザーとしてダーシー卿に同行しており、このコンビは、こちらの世界(?)で言えばピーター・ウィムジイ卿が鑑識係としてソーンダイク博士を連れて歩いているようなものでしょう(豪華ですね(^^;)。
本書には3作品が収録されています。どれも、魔術が当り前になっている世界という背景を別にすれば、純粋の本格謎解きパズラーです(『チョーモンイン』シリーズなど、西澤保彦さんの諸作品と共通するものがありますね)。

「その眼は見た」:女癖の悪さで悪名高いデブルー伯爵が、城の自室で射殺されているのが発見されます。爵位を継ぐのは20歳年下の妹レディ・アリスでしたが、爵位継承の裁決前に、アリスが殺害事件に関与していないことを証明しなければなりません。ノルマンディ公リチャードの命を受け、ダーシー卿と魔術師のマスター・ショーン、ペイトリイ医師の3名がデブルー城へ赴きます。伯爵の秘書サー・ピエール、ブライト神父、客として城に滞在していたスコットランドのダンカン夫妻らから事情聴取を済ませたあと、伯爵の自室を調べると、秘密の螺旋階段(伯爵が城下の女性を秘密裏に呼び寄せるための通路)や、女性貴族向けの様々な衣装が詰まった戸棚(情事の際、平民の娘に着せるためのものと思われます)などが見つかります。さらに、凶器と思われる拳銃や、ドレスからちぎり取られたと思われるボタンも落ちていました。銃はダンカン夫人のものと判明し、情事のために伯爵の部屋を訪れたダンカン夫人が、伯爵といさかいを起こしてもみ合った際に銃を発射したものと思われますが――。死者が最後に目にした映像(それは、とりもなおさず真犯人の顔のはずです)を再現する魔術によって、マスター・ショーンは決定的証拠を提示します。

「シェルブールの呪い」:シェルブール侯爵が失踪し、侯爵の弟の司教の訴えを受けたノルマンディ公リチャードは、ダーシー卿とマスター・ショーンに捜査を命じます。実は、シェルブール侯爵はイングランド国王の秘密エージェントと協力して、東方の仮想敵国ポーランドのスパイを摘発する仕事に従事しており、侯爵の身になにかあれば(例えば、ポーランド人に拉致されたとすれば)、英国にとっても由々しき事態となるわけです。一方、司教の証言によれば、最近、侯爵は一時的に正気を失うことがあり、それが悪化して屋敷を出て徘徊しているのではないかといいます。現地に着いたふたりは、アルコール依存症の気のある侯爵夫人エレーヌ、執事のサー・ギョーム、衛兵監督デュグラス、図書館の整理係シーガ―卿らから事情聴取を開始しますが、地元の憲兵隊長から衝撃的な報せがもたらされます。行き倒れた浮浪者の死体を検分した憲兵隊長は、死体がシェルブール侯爵に違いないと証言したのです。また、ダーシー卿が秘密エージェントのサー・ジェイムズが身分を偽って潜伏している安下宿を訪ねると、サー・ジェイムズも行方不明になっていました。屋敷の酒蔵の奥に秘密の通路を発見したダーシー卿は、サー・ジェイムズの部屋に隠されていた謎の小瓶に基づいて、港に停泊しているポーランド船籍の船が怪しいとにらみ、シーガー卿を連れて乗り込みます。実はシーガー卿はシリアルキラーになる可能性が高い性格破綻者でしたが、魔術による精神矯正を受けていました。

「藍色の死体」:亡くなったケント公爵の亡骸を収める柩の装飾を担当していたマスター・ウォルターは、空のはずの柩に見知らぬ死体が入っていたことに驚きます。しかも、死体は全裸で、全身を藍色に塗られていました。休暇中だったダーシー卿は、リチャードの兄ジョン王に呼び出され、藍色の死体の事件を捜査するように命じられます。実は死体となっていたのは、ケント公の未亡人マーガレットの主任捜査官カンバートン卿でした。そして、藍色に塗られていたことから、国家転覆を企む秘密宗教結社“古代アルビオン聖協会”(こちらの世界の「イルミナティ」やら、なんとか真理教というイメージでしょうか)が背後にいるのではないかと疑われました。マスター・ショーンを伴ってカンタベリイへ赴いたダーシー卿は、二重スパイとして聖協会の幹部になっている理論魔術師サー・トマスとコンタクトし、聖協会の内部事情を聞き出します。また、ケント公の娘レディ・アンから、カンバートン卿が屋敷に持ち込んだ衣装の焼け焦げた端切れ(何者かが証拠隠滅のために焼いたものと思われました)を受け取り、マスター・ショーンの魔術によって衣装の正体を突き止めます。一方、カンバートン卿が調査していた内容も、エジンバラ侯の主任捜査官からの情報で明らかになります。カンバートン卿は、マーガレットがケント公との結婚前に、若気の至りで結婚していたならず者チェスター・ローウェルの死亡事件を調査していたようでした・・・。

オススメ度:☆☆☆☆



魔術師を探せ! (ハヤカワ・ミステリ文庫 52-2) - ランドル・ギャレット, 風見 潤
魔術師を探せ! (ハヤカワ・ミステリ文庫 52-2) - ランドル・ギャレット, 風見 潤

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この記事へのコメント

2020年03月19日 20:44
本題でなく「銀河の空隙より」の方に反応してしまいましたが、(内容が)ハードなSFという表現は言いえて妙かも。
この「ダーシー卿シリーズ」は実際には読んでいませんので、興味深く拝読しました。「魔術が当たり前になっている世界」という設定は、他にも似たようなシリーズがあったような気がします。
○に
2020年03月21日 22:05
メッセージ、ありがとうございます(^^
異星生命体ナイプと、ナイプと戦うためだけに創造された“超人”との関係が、「ハード」でしたね(細かいストーリーは覚えていないのですが)。