スラデック言語遊戯短編集 ☆☆

(スラデック言語遊戯短編集 / ジョン・スラデック / サンリオSF文庫 1985)

スラデックの作品は、過去に「見えないグリーン」を読んでいますが、これは"一筋縄ではいかない曲者"という前評判と違って、意外にもバークリーの「毒入りチョコレート事件」を思わせる本格謎解きミステリでした。しかし、本書は作者の本領発揮とも言うべき“一筋縄ではいかない”前衛的作品集です。
「言語遊戯」というタイトル(邦題)が示すように、駄洒落や語呂合わせといった「言葉遊び」中心の作品が集められているのかと思って読み始めますが、それだけでは済みませんでした。原題はKEEP THE GIRAFFE BURNING(キリンを燃やし続けろ)で、ダリの「燃えるキリン」のモチーフを指していることは明らかです。で、シュールレアリズム小説かと言えば、それだけでもありません。マグリットの絵をそのまま小説化したような、まさにシュールレアリズム的な作品もあれば、バーセルミやバロウズ(『火星シリーズ』ではなく、「裸のランチ」や「ジャンキー」の作者)のような断片的なエピソードを積み重ねた前衛的作品、それに近いけれどもパズルのように読み解けるもの、ラファティを思わせるホラ話、メタフィクションまで、読者を戸惑わせ、悩ませる作品がこれでもかというくらいぶち込まれたごった煮作品集――解説の大森望さんは「すれっからしのマニア向け」と書かれていますが、同じように「すれっからしの読者向け」と言われるジョン・コリアのほうが、何倍もとっつきやすいです。その意味で、非常に「読者を選ぶ」作品集だと言えます。
また、作者自身による「あとがき」では、作者の友人である女性作家カサンドラ・ナイが、各収録作品を結びつけるモチーフとビジュアルイメージの変遷を図解しており、スラデック自身は「ミズ・ナイの解釈はピントがずれている」とコメントしています。ところが、実はカサンドラ・ナイはスラデックがゴシック・ロマンスを書くときに使うペンネームなのだそうです。どこまでも人を食っていますね(^^;
全部で17作品が収録されていますが、作品の性格上、ストーリーを紹介しても無意味(あるいは紹介不能)なものもありますので、ご容赦ください。

「義足をつけた象」:気が狂った科学者たちだけが研究を続けている研究所では、内部の環境そのものもどこかおかしくなっています。

「人間関係ブリッジの図面」:次から次へ登場する人物同士を結びつける関係を図示すると、橋の設計図になってしまいます。

「顔人間」:地面から生えている顔(どうやら、首から下は地中にないらしい)の正体は?

「マスタープラン」:まともな流れ(?)を持つ9つのショートストーリーをパラグラフ単位でシャッフルし、バラバラにつなぎ合わせたもの。

「平面俯瞰図」:数組の登場人物が、互いに関わり合うような、関わり合わないような微妙でシュールなストーリーを展開します。タイトルから連想されるのは、「神の視点から描かれる物語」ということでしょうか。

「時空とびゲーム」:一見してクライム・ストーリーのようでいて、どこか飛び飛びなのが、「時空とび」というタイトルの所以。

「悪の槌、またはパスカル・ビジネス・スクールでの出世の機会」:正体不明の敵アカマー(宇宙人?)に捕らえられて牢獄に放り込まれた囚人は、カードによる無限の尋問を受けています。そこへ昔馴染みの教授が訪れて、「囚人のジレンマ」もどきの命題に取り組むことになります。

「密室 もうひとつのフェントン・ワース・ミステリー」:ありとあらゆる密室事件を解決してきた名探偵が、密室ミステリの謎を解こうとしているうちに、密室で殺されます。これほど論理的で掟破りの真犯人はいないでしょう(笑)。

「いま一度見直す」:気になっても、「二度見」しないほうがいいこともあります。

「神々の宇宙靴 ある考古学的黙示」:デニケンもかくやという、古代宇宙飛行士説にもとづくトンデモ理論を大真面目に展開します。

「アイオワ州ミルグローヴの詩人たち」:ミルグローヴ出身の宇宙飛行士は、地元のヒーローとして故郷の町へ戻ります――首括りで殺されるために。

「書評欄」:もしかすると、他人の作品を評価するというのは不毛な作業なのかもしれません。

「十五のユートピアの下に広がる天国」:ユートピアをテーマにした15のショートストーリーからわかるのは、「人の数だけユートピアはある」ということでしょうか。

「いなかの生活情景」:描かれるのは、決して「いなか」の情景でも「生活」の情景でもありません。実は不条理SFミステリ?

「古くなったカスタードの秘密」:知らないほうがいいと思います。実は謀略SF。

「非十二月」:閏月(?)のようで、閏月ではありません。それ以上にギルバート・ゴッセンとも関係ありません。

「メキシコの万里の長城」:タイトルは米国の現役大統領が造ろうとしていたものではありませんが、内容は米国の大統領が主人公の物語です。

オススメ度:☆☆



スラデック言語遊戯短編集 (サンリオSF文庫) - ジョン・スラデック, 道雄, 越智
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