幸いなるかな、貧しき者 ☆☆☆

(幸いなるかな、貧しき者 / ハドリー・チェイス / 創元推理文庫 1971)

チェイス中期の長篇です(原書の出版は1962年)。

田舎町ピッツヴィルの銀行の支配人が脳卒中で倒れ、支配人代理としてデイヴ・カルヴィンが赴任してきます。デイヴの部下は、真面目だけが取り柄で色気のかけらもないアリス・クレイグだけで、野心家のデイヴは自分の運命を呪います――大金さえつかめれば、すぐにこんな仕事を辞めて、大物になることができるのに。しかし、アリスに紹介された下宿屋(アリスの下宿でもあります)の女主人キット・ローリングは、てきぱきした美貌の未亡人で、女好きの(笑)デイヴは、すぐに惹かれてしまいます。下宿にはアリスの他は、老人と老嬢がいるだけで、キットの一人娘で18歳のキャロルは深夜営業の映画館で働いています。
ある日、デイヴはアリスから、月に一度、銀行では地元の工場が従業員に支払う給料として30万ドルの現金を金庫室に預かることを聞きます。もちろん警備体制は厳重で、金庫室の鍵はデイヴとアリスが別々のものを持っており、それを一緒に使わないと開きません。また、金庫室には異変があれば自動的に警報を発する電子装置が備え付けられており、その晩は向かいの保安官事務所でトムスン保安官と若い副保安官ケン(キャロルの恋人)が寝ずの番をしています。しかし、大金に目がくらんだ(笑)デイヴは、なんとかして30万ドルを手にしようと、計画(というより妄想)を練り始めます。それと呼応したように、キットは前夫にひどい目に遭わされた身の上を語り、金さえあればこの町を出ていけるのに、と訴えます。こうして、デイヴとキットは銀行から30万ドルを奪うべく、具体的な計画を考え始めるのでした。
デイヴは、金庫室から金が消えれば真っ先に疑われるのは自分だと自覚していました。そのため、部下のアリスを犯人に仕立て上げる準備にとりかかります。アリスに恋人ができ、その男にそそのかされてアリスが金庫室から30万ドルを盗み出し、一緒に逃亡したという筋書きでした。そのため、デイヴは目立つ服装をしてジョニー・エイカーズという架空の青年になりすまし、アリスのコートと帽子を身に着けたキットと下宿の外の道路脇でキスシーンを演じ、下宿の老人たちに目撃させます。また、デイヴはキットと恋仲になって、いずれ結婚するだろうとほのめかし、町を自然に出ていける準備も整えます。
そして、決行当日――30万ドルの現金を金庫室に収めたあと、デイヴはアリスを殺し、アリスに化けたキットが車に向かう姿を保安官に目撃させます。単純な手段で警報装置を使えなくしたデイヴは、金庫室から現金を銀行内の貴重品保管箱に移し、ほとぼりが冷めるのを待つことにします。あとは、アリスの死体を車と一緒に放置し、現金を奪ったジョニーが用済みのアリスを始末したように見せかければいいだけでした。しかし、綿密に練り上げたはずのデイヴの計画は穴だらけでした。最大の誤算は、かつて前夫の暴力を受けてアルコール依存症になったことがあるキット(そのときは、主治医とキャロルの尽力で治療施設に収容し、回復しています)が、ストレスから再びアルコールに手を出していたことでした。キットはデイヴの手に負えなくなり、悩みの種になります。また、キャロルもデイヴのことを良く思っておらず、副保安官ケンもデイヴに悪印象を持っていました。
大事件の勃発に、ピッツヴィルを管轄するFBI捜査官イーストンが派遣されてきますが、イーストンは自他ともに認める(笑)無能な捜査官でした。デイヴが残した手掛かりに飛びついたイーストンは、架空の青年ジョニー・エイカーズを追うよう指示します。その線を追ったケンは、ジョニー(実は変装したデイヴ)が車を購入した自動車店の主人から、ジョニーが無意識に歌をくちずさむ癖があったという証言を受け、どきりとします。デイヴにも同じ癖があったからでした(もちろんデイヴは自分の癖を意識していません)。
キットのアル中はますますひどくなり、デイヴはキャロルを味方に引き入れるために(ケンと別れさせるために)、アリスの後任として高給でキャロルを雇い入れ、口八丁のデイヴに説得されたキャロルは、ケンに別れを切り出します。しかし、ケンにデイヴへの疑いを聞かされ、それを裏付けるような証拠も見つけたため、キャロルはデイヴの留守中に銀行内を調べ、ついに隠されていた30万ドルを発見します。それを知ったデイヴは、キャロルが警察へ告発すれば、母親キットも強盗殺人の共犯として逮捕されることになると脅し、ケンも愛するキャロルのために保安官を辞職して、何も言わず二人で町を離れることをデイヴに約束します。
ところが、アルコールによる妄想・幻覚と良心の呵責にさいなまれたキットは、ビルの工事現場のてっぺんに上がって、飛び降り自殺を図ろうとします。デイヴの計画は次々に狂い、ついには何もかも捨ててピッツヴィルから逃げ出すしかなくなりますが――。

デイヴは、ハンサムで口がうまく、外面はいいものの、中身は自分の利益しか考えない冷酷な下衆野郎です。自信たっぷりな計画も、ツッコミどころが満載で、「おいおい、本気で実行する気かよ」と言いたくなりますが、それは話の都合(笑)でしょう。読者は、デイヴの言動にむかつきながら、ラストでどんなふうにデイヴがぎゃふんということになるのか、楽しみに読み進めることになります。そして、その期待は裏切られません。

オススメ度:☆☆☆


幸いなるかな貧しき者 (創元推理文庫) - ジェームズ・ハドリー・チェイス
幸いなるかな貧しき者 (創元推理文庫) - ジェームズ・ハドリー・チェイス

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