ハリマオ ☆☆☆☆☆

(ハリマオ / 伴野 朗 / 角川文庫 1987)

タイトルの「ハリマオ」は、マレー語で「虎」のこと。昭和30年代の実写ドラマ「快傑ハリマオ」は、見た記憶がありません(なぜか主題歌は歌えます(^^;)が、存在は知っていました。実は、この「ハリマオ」にはモデルとなった人物がおり、戦時中には「マライの虎」という戦意高揚映画も作られています。本作は、そういった史実をなぞりつつ、太平洋戦争前夜にマレー半島で縦横に暴れまわった日本人青年の姿を描いた力作です(もっとも、巻末には「この物語はフィクションであり、実在の人物には一切関係ありません」と書かれていますが)。

1920年代後半、マレー半島中部東岸のクアラトレンガヌに、谷という日本人一家が暮らしていました。当時のマレー社会は、中国人(華僑)が勢力を拡大しつつあり、地元のマレー人(回教徒中心)との宗教の違いもあって、正面切っての対立とは言えないまでも、緊張感は漂っています。しかし、床屋を営む主人の谷吉三は分け隔てせず両者に接していましたが、どちらかと言えばマレー人に親愛の念をおぼえており、貧しいマレー人には施しをするなど情に篤い人物でした。妻と二人の子供がおり、長男の豊(これは実在のハリマオの本名)は16歳、妹の花江は6歳になったばかりでした。一方、町の顔役である高利貸しの華僑・呉希文は、父親が日本人の詐欺師に陥れられたために若い頃に辛酸をなめたせいで、日本人を憎んでいました。新聞の誤報で、上海にいる甥が日本軍に殺され、甥に預けておいた財産の半分が消失したと信じ込んだ呉は(実際には、死んだのは別人で、甥はとっくに財産を持って脱出していたのですが)、以前から気に食わなかった谷一家に復讐しようと考えます。命令を受けた人間凶器のような太極拳の達人・姚子卿は、釣に出かけて留守だった豊を除く家族3人を殺し、家に火を放ちます。呉の仕業と知った豊は、その晩、拳銃を手に呉の屋敷へ忍び込みますが、銃撃は外れ、逆に追われることになってしまいます。呉の飼う虎に追い詰められた豊は、跳んできた礫に救われ、虎を返り討ちにして逃げ出すことに成功します。礫を投げたのは、姚子卿でした。
豊は親友のマレー人ジョハリの助けで、密林の奥に住むジョハリの叔父スワトの家に匿われます。虎との対決で負った重傷を癒し、ジョハリの従姉妹にあたるマトとの恋に落ちながらも、豊(虎を倒したことで、ジョハリからはハリマオと呼ばれるようになります)の心の中で呉への復讐心が消えることはありませんでした。元気を取り戻し、自らハリマオと名乗るようになった豊は、密林で生きるすべを身に着けるべく、単身密林で暮らし始めます。その中で、奴隷上がりの怪力・巨漢のインド人アブドラが底なし沼に沈むところを助けたのが縁で、忠実な部下を得ることになります。やがて、ジョハリの兄ハムザが、呉がコタバルの暗黒街の大物・劉大生を接待するための大掛かりな虎狩りを催すという情報をもたらします。絶好のチャンスと見たハリマオは、虎狩りのどさくさの中で呉を倒すべく(姚は呉と袂を分かったようでした)、ジョハリ、ハムザ、アブドラと作戦を練ります。
中国人のふりをして虎狩りの勢子として雇ってもらったハリマオは、荷運び人夫として雇われたアブドラが呉の乗った象を暴走させたのをきっかけに、呉に襲い掛かろうとします。その際、隣にいた勢子から「なにかあったらコタバルの中華街の「徳記」へ行け」と耳打ちされます。呉を殺すのに成功したハリマオは、アブドラの援護でジョハリと共にジャングルに逃げ込みますが、虎狩りを台無しにされた劉は、二人を追って凄腕のハンターを密林に送り込んで追跡させます。マレー人のハンター、追跡名人のウラに追い詰められ、進退窮まった二人を救ったのは、マレー人からも蔑視されている原住民オラン・アスリの一隊でした。かつてハリマオと父・吉三は、奴隷商人に捕まったオラン・アスリの少年を助けたことがあり、その少年ナンと父親の一族が恩返しをしてくれたのです。また、ハリマオは、原住民に処刑されるところだったウラを救って解放してやりますが、これに恩義を感じたウラは、後日ハリマオの忠実な配下となります。
タイに逃げるジョハリと別れたハリマオは、姚子卿が立ちまわったと思われるコタバルへ向かい、「徳記」を訪れます。そして、自分に「徳記」のことを教えたのがマラヤ共産党の書記長、“赤い星”こと陳平だと知ります。陳平は、ハリマオの勇気と豪胆さを買い、共産党の活動に参加するよう口説くのですが、陳平との約束を果たさないうちに、ハリマオは劉の配下に捕まってしまいます。牢獄に押し込められ、翌朝にはなぶり殺しにされる運命にあったハリマオを助け出したのは、盗賊団の頭領の中国人、通称“犬の面”でした。客分として劉の屋敷に滞在していた“犬の面”は、陳平と同じくハリマオの頭脳と手腕を認めており、ぜひ自分の片腕にしようと考えていました。こうしてハリマオは、密林を根城とする盗賊団の一員となり、やがて“犬の面”から頭領の座を譲られて、盗賊団を率いることになります。アブドル、ジョハリ、ハムザ、ナン、ウラといった一騎当千の忠実な配下に支えられ、イギリス軍や悪辣な華僑の商人ばかりを襲うハリマオの盗賊団は、マレーの民衆からヒーローのように扱われるようになるのでした。
同じころ、国際情勢も風雲急を告げていました。中国大陸での関東軍の参謀だった福見松五郎少佐は、自分の意見具申がことごとく無視されることに不満を持っていましたが、内地へ呼び返され、これまで縁のなかった陸軍参謀本部第六課に出頭を命じられます。第六課長滝川大佐は、日本軍の南方資源地帯進出には英軍の根拠地であるシンガポールを陥落させるのが必須と考えており、軍事探偵としてマレー半島の情勢を探り、現地で支援組織をひそかに作り上げるよう、福見に命令を下します。一方、英国諜報部のフォークナーも、日本軍の動向とマラヤ共産党の動向の双方を探るべく、姚子卿を工作員として使っていました。
福見は、昼行燈を演じながらじっくりと活動していましたが、やがて陳平の接触を受けます。共通の敵・英国軍を出し抜くために手を握ろうというわけですが、福見が探しているマレーでの信頼できる協力者として陳平が挙げたのが、日本人であるハリマオでした。陳平の仲立ちで含みとハリマオは会見しますが、福見の熱弁をもってしても、ハリマオから色よい返事を引き出すことはできませんでした。しかも、ハリマオが指定した2回目の会談場所が英軍の襲撃を受け、福見少佐が戦死するという事態が起きてしまいます。腹心の部下の中に、英軍に内通した裏切り者がいることを、ハリマオは悟ります。福見への償いのため、ハリマオは日本陸軍に協力し、ベラク川に架かる鉄橋を確保する作戦を実行することを決意します。しかし、鉄橋にはハリマオとの対決を心待ちにするフォークナーが、姚子卿とともに待ち受けていました。
悪性マラリアの発作に苦しみ、配下に犠牲を出しながら、ワニや蛮族が跳梁する密林を踏破したハリマオは、爆発物の専門家“犬の面”が橋梁に取り付けられた英軍の爆弾を取り外している間、陽動作戦で守備隊の注意を引きつけようとしますが――。

オススメ度:☆☆☆☆☆


ハリマオ (角川文庫) - 伴野 朗
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