響き交わす鬼 ☆☆☆

(響き交わす鬼 / 東 雅夫:編 / 小学館文庫 2005)

「モノノケ大合戦」に続く、小学館文庫版『妖怪文藝』シリーズ全3巻の<巻之弐>です。
今回のテーマは、タイトルからおわかりのように「鬼」です(中国の霊魂を表す「鬼(キ)」ではなく、酒呑童子に代表されるような、形ある魔物としての「鬼(オニ)」です)。前巻同様、冒頭にテーマに即した対談、次にテーマに沿った「鬼」の作品を集めた「響き交わす鬼」、後半はテーマを限定しない妖怪小説を集めた「文藝妖怪名鑑」で構成されています(小説だけとは限りません)。「鬼」に関しては、「桃太郎」や「酒呑童子」のような「鬼=人に害をなす恐ろしい怪物」という図式にあてはまらない、「鬼」という存在(まつろわぬもの=時の権力者に逆らった勢力)の原点に還った作品が多く収められています。その意味では、auのCMにも同じ思想が流れているわけですね(^^
それでは、収録作品を紹介していきます。

対談「桃太郎なんて嫌いです。」(加門 七海&霜島 ケイ):鬼を主人公(テーマ)にした作品を書いている女流作家2名による対談。話題の中心が、当時(2005年)ブームになっていた特撮ドラマ「仮面ライダー響鬼」になっているのが面白いところですが、編者の東さんも同ドラマを激賞しており、「響鬼」の世界観などが本書のテーマに本質的に深く関わっていることが推察されます。

<響き交わす鬼>
「鬼剣舞の夜」(馬場 あき子):鬼や妖怪に興味がある人なら誰でも知っている「鬼の研究」の著者が、岩手県南部に伝わる民俗芸能『鬼剣舞』(「おにけんばい」と読みます)をテーマに詠んだ和歌集。
「切なき勇躍――鬼剣舞の鬼」(馬場 あき子):上記と同じ著者による、鬼剣舞に関するエッセイ。中央権力に逆らって斃れた東北の英雄たち(悪路王、安部貞任、源義経など)を慰撫するために舞われる鬼剣舞の背景に思いを馳せています。
「酒呑童子――『お伽草子』より」:『酒呑童子絵巻』を底本に、野坂昭如さんが現代語訳した「酒呑童子」物語。大江山に棲む酒呑童子を首領とする鬼たちを、天皇の命を受けた源頼光と郎党が討ち取る顛末を描いたものです。活弁士の講談を聞いているようなテンポの良い名調子が楽しめます。
「鬼桃太郎」(尾崎 紅葉):理不尽にも桃太郎と家来たちに蹂躙され、宝物を強奪された鬼ヶ島の鬼が、川を流れてきた苦桃から生まれた豪勇無双の青年“苦桃太郎”に命じて復讐を果たそうとする物語。苦桃太郎は毒竜、狒々、狼を手下に旅立ちますが、思わぬアンチクライマックスが待っています。
「桃太郎」(芥川 龍之介):ブラックユーモアが横溢した「桃太郎」のパロディ。そもそも、桃太郎が地上に生れたのは、不幸な(?)事故だったようです。
「鬼の語」(伊良子 清白):明治の浪漫派詩人による怪奇な詩。
「鉢の木」(加門 七海):京都の深山の奥にひっそりと佇む神社を訪ねた黒頭巾の男は、応対に出た神主と式鬼を使って対決します。
「鬼の実」(霜島 ケイ):台所のものがなくなるという妻の訴えを聞いた語り手は、醜い小鬼を捕まえます。小鬼は元は人間でしたが、悪行のせいで坊主に鬼にされてしまったと語りますが、居心地が良かったのか、語り手の家に住み着いてしまいます。いくつかの怪異を解決した後、弱って来た小鬼は、自分を食べてくれ、そうすれば救われる、と語り手に訴えてきますが――。
「鬼の太鼓 雷神・龍神・翁のイメージから探る」(小松 和彦):天界に住む鬼である雷神は、雷鳴の象徴として必ず太鼓を持っていますが、そこから語り起こして鬼と太鼓のつながりを考察するエッセイ。太鼓の専門誌(?)に掲載されたものだそうです。
「鬼の時代――衰退から復権へ」(小松 和彦):古色蒼然たる「鬼」は廃れましたが、新時代の「鬼」が台頭しつつあることを喝破したエッセイ。

<文藝妖怪名鑑>
「土蜘蛛草紙」(秋山 亜由子):“虫愛ずる漫画家”という異名を持つ異色の漫画家(恥ずかしながら、今回、初めて知りました(^^;)が描く、源頼光主従による土蜘蛛退治の物語(原典は「土蜘蛛草紙絵巻」)。水木しげるさんと通底する、生々しい迫力が伝わります。
「てんぐ山彦」(今江 祥智):山道で出会った、気配だけの姿なき怪物は、呼びかけるたびに不気味に応え、「出てこい」と怒鳴ると幾何級数的に増殖していきます。
「蟹族妖婚譚」(藤澤 衛彦):蟹の化物に冒された女性の運命を描く説話は、アジア各地に存在しているそうです。アンソロジー「人獣怪婚」に収録されていてもおかしくない作品。
「一反木綿」(椋 鳩十):夜道で一反木綿と出会うと、剣の達人でもひどい目に遭います。動物児童文学で著名な作者ですが、このようなエロチックかつグロテスクな妖怪譚も書いていたのですね。
「美女と大蟻」(香山 滋):"人見重吉"シリーズと共通する、秘境冒険怪奇小説(主人公の青年には名前がありませんが、人見重吉であってもおかしくありません)。アフリカ南部の町を訪れた日本人青年は、ジャングル奥地の廃墟に幽閉されていた娼婦を身請けしますが、彼女には恐るべき秘密がありました。
「オトロシその他の怪」(山田 野理夫):東北各地の伝承に取材した妖怪譚163篇を収めた労作「東北怪談の旅」より、「オトロシ」、「川中の蜘蛛」、「壁になった赤子」、「大蟹」、「山びこ」、「網切り」の6篇が収録されています。
「かべは知っていた」(三田村 信行):1960年代、児童文学として発表されながら、モダンホラーそのものという異色作。語り手である主人公カズミの父は、いつもの夫婦喧嘩の腹いせに、壁の中の異世界に閉じこもってしまいます。そこでは年も取らず、飲み食いしなくても生きて行けるそうなのですが――。事情を知らない母は、夫が家出したのだと思って警察に捜索願を出しますが、もちろん見つかるわけがありません。カズミだけが父親と壁越しにコミュニケーションを取っていましたが、父は日に日に弱っていくようでした。そのうち、アパートが取り壊されることになり――。
「産女の出る川を深夜に渡る話」:「今昔物語」のなかの怪異譚を、福永武彦さんが現代誤訳したもの。内容は、タイトルの通りで、過不足ありません。

オススメ度:☆☆☆


妖怪文藝〈巻之弐〉 響き交わす鬼    小学館文庫
妖怪文藝〈巻之弐〉 響き交わす鬼 小学館文庫

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この記事へのコメント

2019年07月24日 00:58
特に「鬼桃太郎」の解説を読んで思い出したのが、「本田鹿の子の本棚」の一話である「グレープフルーツ太郎」です。作品自体が架空の存在なのですが、実在すれば正にこの短篇集に入っていたかもしれません。
○に
2019年08月30日 20:51
コメント、ありがとうございます。しばらくネットが見られない環境におりましたので、ご返事が遅れてしまいました(^^;
お知らせいただいた作品は、寡聞にして知りませんでしたが、「桃太郎」のパロディのようですね。