マジック・キングダムで落ちぶれて ☆☆☆

(マジック・キングダムで落ちぶれて / コリイ・ドクトロウ / ハヤカワ文庫SF 2005)

2004年のローカス賞を受賞した、作者の長篇第1作。近未来のディズニー・ワールドを舞台にしたユニークなSFです。
21世紀後半、人類はクローン技術と精神コピー技術を実用化して、事実上の不死を実現していました。ある時点の自分の精神をサーバ上にバックアップしておき、自分が死んだ際には、バックアップしておいた精神をクローンの肉体にリストアして、再び生活を始めればいいわけです。もっとも、精神状態は最新のバックアップを取った時点に戻ってしまいますので、バックアップ時点から死の瞬間までの記憶は失われてしまいます。できるだけ記憶の欠落を防ぐため、人々は頻繁にバックアップを取っています。このようにして事実上の不死を獲得した人々は、自分のやりたいことだけをして生活しているわけですが、一方、無限に生きられることに飽きた人々は、自殺する代わりに“デッドヘッド”と呼ばれる状態に入ります。これは意識だけのコールドスリープとでもいうべき状態で、意識だけを保温しておき、本人があらかじめ指定しておいたタイミング(100年後とか、特定のイベントが発生したときなど)に、再びクローンの肉体で復活するというものです。
このような世界では従来型の貨幣経済は崩壊しており、個々人は周囲や他人から得られる評判(ウッフィーと呼ばれています)が保持され、誰でも相手のウッフィーの状態を見て取れるようになっています。ウッフィーは仮想通貨として使われ、消費すれば減っていきますから、貧乏になりたくなければ(ウッフィーが乏しい人間は、社会の落ちこぼれとみなされ、見下されてしまいます)、人々の評判になるような行動をして新たにウッフィーを稼ぎ出さなければなりません。つまり、ツイッターで得た「いいね」の数が、そのまま通貨となり、本人の社会的評価となるようなもので、その意味で作者は見事に十数年後の未来を予言していたと言えますね(^^;
主人公ジュールズは、すでに1世紀を超えて生き続けていますが、今は昔からの憧れだったフロリダのディズニー・ワールド内のマジック・キングダムで、ホーンテッド・マンションの運営クルーとして働いています。この時代、創業者のディズニー一族はあらゆる権利を手放しており、世界各地のディズニー・ワールドは、アドホクラシーと呼ばれるボランティア制度(各運営メンバーはアドホックと呼ばれます)によって運営されていました。ジュールズは、実年齢20歳ほどの恋人リルの両親(有力なアドホックで、現在はデッドヘッド状態で眠りに就いています)に認められてアドホックとなっています。
ある日、ジュールズは旧友のダンから連絡を受けます。ジュールズが実際に若かったころ、ダンはそのユニークな才能で、世界でもトップクラスのウッフィーを得ていました。世界には、誰でも不死を得られるという時代の趨勢に反対し、閉鎖的なコミュニティを作って周囲と関係を絶っている集団がいくつも存在していました。ダンはそれらのコミュニティに入り込み、相手を説得して社会復帰(?)を促す“唱道者”の一人で、唱道者として類まれな成果を挙げ続けていましたが、たまたま酒場で知り合ったジュールズをなぜか気に入り、友人として扱ってくれていました。
久々に会ってみると、ダンはすっかり様変わりしており、ウッフィーも乏しいみすぼらしい様子でした。リルと同棲している自宅に連れ帰って話を聞くと、ダンは唱道者としての役割を終え(つまり、唱道すべきコミュニティが地球上から失くなってしまったわけです)、人生を目的を失ってしまったのでした。ジュールズはリルの協力で、ダンをホーンテッド・マンションのクルーとして雇うことにし、ダンも次第に活力を取り戻していきますが、そんな折、ジュールズはゲストの少女に撃たれ、死んでしまいます。
もちろんすぐに最新のバックアップから復活しましたが、回復する間に、マジック・キングダムでは異変が起きていました。北京ディズニー・ワールドの改革に手腕を発揮した女傑デブラと配下のクルーたちが企画書を提出し、ホーンテッド・マンションに隣接する大統領ホールのアトラクションに大幅な変更を加えようとしていました。それに対抗すべく、ジュールズやリルはホーンテッド・マンションにもゲスト参加による新たな演出を加えようとします。しかし、ジュールズは断続的にネットから切り離されるという原因不明の体調不良に陥っており(この時代、みな脳内に埋め込んだインターフェースにより、頭の中でネットに直接アクセスすることができます)、計画は順調には進みません。新顔のクルーと従来のアドホックとの軋轢、デブラ一派による巧妙な妨害など、問題が山積するばかりか、リルとダンによる不倫までが明らかになります。冷静さを失ったジュールズは、デブラの大統領ホールに破壊工作を仕掛けますが失敗に終わり、アドホックたちに犯行を暴露されて、ジュールズのウッフィーは最低レベルに落ち込んでしまいます。
錯乱したジュールズは医師の診断を受け、死から復活した時の処置に欠陥があったと告げられます(断続的なネット遮断も、そのせいでした)。バックアップからリストアすれば解決するのですが、ジュールズは忙しさにかまけて、ずっとバックアップを怠っていました。今、古いバックアップを使って復帰すれば、ホーンテッド・マンションの改革やデボラ一派との闘争に奮闘していた記憶と体験がすべて無に帰してしまうため、ジュールズはリストアを拒否し、不調な心身を抱えてデブラ一派に対抗しようとします。しかし、デブラがリルの両親を復帰させて仲間に引き入れ、ダンからは思いもよらない事実を告白され、ジュールズは絶望的なまでに追い詰められていきます。
アドホックたちの総会で、ジュールズはデブラと最後の対決をすることになりますが――。

オススメ度:☆☆☆




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