魔物を狩る少年 ☆☆☆☆☆

(魔物を狩る少年 / クリス・ウッディング / 創元推理文庫 2005)

ヴィクトリア時代の英国ロンドンを舞台にした歴史改変ダーク・ファンタジーです。
こちらの世界とは微妙に異なる歴史を持つ19世紀のロンドン――。かつてプロイセンの飛行船部隊から“殲滅戦”と呼ばれる猛烈な空襲を受けたロンドンのテムズ川南岸地帯(旧市街と呼ばれます)は、伝説の妖怪や魔性のものどもが跳梁する危険地帯と化しています。こうした“魔の眷属”は、夜な夜なテムズ川を渡って北岸地域にも侵入し、住民たちを恐怖に陥れています。しかし、ロンドンには魔物たちを退治するウィッチハンターと呼ばれる人々が存在していました。彼らは古の神話や伝説、古代の魔法書などから見出した護符や呪法を用いて“魔の眷属”に立ち向かい、試行錯誤を通じて対抗策を編み出しています。
サニエル・フォックスは、英国一のウィッチハンター、ジェドリア・フォックスを父に持ち、まだ少年ながら亡父の跡継ぎにふさわしい凄腕のウィッチハンターとして活躍しています。今夜も、赤ん坊をさらう魔物クレイドルジャックを追跡していたサニエルは、廃屋で記憶をなくした少女を保護します。現在の相棒で師匠でもある女性ウィッチハンター、キャサリン・ベネットと共同生活している家に戻ると、少女はアライザベル・クレイという名前だけは思い出しますが、自分の素性や廃屋にいた事情などは不明のままです。アライザベルの正気を疑うサニエルは、旧知の精神病院院長ドクター・パイクに問合せたところ、アライザベルの人相に合致する少女が火災を起こした精神病院から逃走しているという情報がもたらされます。身ぎれいにすると、アライザベルは金髪碧眼の美少女で、サニエルは少年らしい気持ちを抱くのですが、その正体は不明のままです。しかし、発熱したアライザベルが鎮静剤を投与されたところ、サットと名乗る老婆の別人格がアライザベルの意識の表層に浮かび上がってきます。アライザベルの背中に刻まれたタトゥーを見たキャサリンは、それが秘密結社フラターニティの紋章であることに気付きます。どうやら、アライザベルはフラターニティの呪法によって召喚された古代の魔女サッチの依代として利用されているようでした。ただ、意外なのは、アライザベルには強い精神力があり、魔女サッチに対抗して抑え込むことができる点でした。
同じころ、ロンドンではステッチ・フェイス(「継ぎはぎだらけの顔」という意味で、イメージとしてはブラックジャックでしょうか)と呼ばれる連続殺人鬼が跳梁していました。辻馬車の御者を装って一人歩きの女性に近づき、目と舌と心臓を切り取った死体を後に残すのでした。チープサイド警察署のメイクラフト警部とカーヴァー刑事は、専従でステッチ・フェイスの事件を追っていましたが、カーヴァーはメイクラフトの意見に反して、別の犯人がステッチ・フェイスの犯行に見せかけて連続殺人を起こしているという意見でした。その根拠は、ステッチ・フェイスの縄張りの外側でいくつも事件が起きているということで、カーヴァーはそれらの事件の現場を地図上に緑の旗でプロットしているため、“緑の旗の殺人事件”と呼んでいます。メイクラフトが置き忘れた手帳を何気なくめくったカーヴァーは、緑の旗でプロットして地図上に浮かび上がったものとそっくりの図像が、あるページに描かれているのを目にします。その図像は、実はフラターニティが召喚しようとしている強大な魔物に他なりませんでした。
アライザベルがフラターニティに追われていることを知ったサニエルとキャサリンは、ロンドンの地下に迷路のように広がるクルックト・レーンズにアライザベルを隠すことにします。クルックト・レーンズはベガー・ロード(乞食の王)クロットが支配しており、サムエルの父ジェドリアがクロットの妻の命を救ったことがあるため、クロットはサムエルに協力してくれるはずでした。地下道に出没する大ネズミを退治することを見返りに、サニエルはクロットとの交渉に成功します。そこへ、カーヴァー刑事がクロットの元を訪れます。メイクラフトが敵の陣営に属していることを知ったカーヴァーは、独自の捜査を進めるため、クロットの情報と援助を求めてきたのです。クロットはフラターニティの存在を告げ、ウィッチハンターと協力するよう勧めます。
例の図像から、次の“緑の旗の殺人事件”が起きる場所を予測したカーヴァーは、サニエル、キャサリン、アライザベルらと現場を密かにパトロールしますが、出現した魔物ローヘッド(いわゆる「ベッドの下の怪物」)と対決しているうちに、アライザベルが行方不明になってしまいます。フラターニティに雇われたアメリカ出身のウィッチハンター、キュリアン・ブレークが隙を見て拉致したのです。フラターニティは、コントロールできないアライザベルからサッチの精神を抜き取り、別の依代に憑依させようとしていました。フラターニティは精密な儀式を行い、サッチに精神を別の少女に移し替えることに成功しますが、サッチの能力の一部はアライザベルに残ったままでした。そのため、アライザベルは鍵の掛かったドアを開ける呪文を駆使し、閉じ込められていた精神病院(実はドクター・パイクはフラターニティの大幹部でした)からの脱走に成功します。
フラターニティの目的が強大な邪神グラウ・メスカを召喚して全世界を魔界にすること(「アーカム計画」でクトゥルーの復活を目論む連中と同じですな)だと知ったサニエルらは、力を合わせて阻止することを誓います。クロットの側近で盲目の予知能力者デビルボーイ・ジャックの立てた計画に従い、サニエル、キャサリン、アライザベル、カーヴァー、クロット、デビルボーイ、これもクロットの手下で知恵遅れの巨人アルマンの合計7人(そういえば、帝国華撃団・花組も7人では?(^^;)は、“魔の眷属”が出没する地下道を抜けて英国空軍の飛行船基地へ向かいます。カーヴァーの手腕で飛行船(翔鯨丸ではない(^^;)を調達した一行は、フラターニティがグラウ・メスカ召喚の儀式を行っている旧市街の大聖堂へ突入を敢行します。最終決戦の行方は――。

ヴィクトリア時代を舞台とした歴史改変ホラー・ファンタジーとしてはキム・ニューマンの「ドラキュラ紀元」がありますが、本作は好一対です。どちらもヒロインは金髪碧眼の美少女(「ドラキュラ紀元」では、外見16歳、実年齢472歳の美少女吸血鬼ジュヌヴィエーヴがヒロイン)という共通点はあるものの、「ドラキュラ紀元」は実在人物や古今東西の小説や映画の主人公がそう登場するのに対し、本作に登場するのはすべてオリジナルのキャラクターで、“魔の眷属”にしてもケルトの伝説に出てくる由緒ある(笑)魔物ばかりです。
また、作者クリス・ウッディングは日本のアニメやゲームにも詳しいらしく、ラスト100ページはアニメやゲームの“いいとこ取り”をして、うまくオリジナリティと融合させ、説得力のある“燃える(萌える)展開”となっています。特に最終決戦に向かう翔鯨丸(違)の中で互いに心情を打ち明け合うサニエルとアライザベルは、大神少尉とすみれさん(←すみません、自分がプレイするとほぼヒロインはすみれさんになるもので(^^; ご自分のお気に入りのヒロインと置き換えてください)そのものです。

オススメ度:☆☆☆☆☆




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