エルダ 混沌の“市” (上・下) ☆☆☆

(エルダ 混沌の“市” (上・下) / ジュード・フィッシャー / ハヤカワ文庫FT 2005)

作者フィッシャーの初長篇、異世界ファンタジー『愚者の黄金』三部作の第1作です(ただし、2作目以降は邦訳されていません)。解説によると、フィッシャーはもともと筋金入りの『指輪物語』フリークで、同書を出している出版社に入社して『指輪物語』関連書籍の編集に精力的に携わりました。その後、SFやファンタジー雑誌や書籍の編集・出版を続け、辣腕女性編集者として業界に知られるようになり、満を持して作家兼業になったとのこと。

物語の舞台は、エルダと呼ばれる世界で、プロローグによれば、“師”と呼ばれる偉大な魔法使いが創造したもののようです。エルダの最果ての地、聖域に住んでいた“師”は、弟子のヴィレレイに薬を盛られて長い眠りについています。ヴィレレイは掟によって、いくら恨んでいても自分で手を下して“師”を殺すことはできず、師を眠らせたあと、人々の住む南の大陸へ船を進めるのでした。
エルダには、南の大陸を支配する軍事国家イストリアと、北の海に点在する島々の船乗りや漁師たちで構成されるイーラの二大国家が存在していました。この二国は文化も慣習も信仰する神も異なり、十数年前までは血みどろの戦争を繰り広げていました。現在は平穏な関係を保っているものの、常に緊張状態が潜在しており、いつまた戦争状態が始まるかわからない状況でした。そんな中でも、年に一度、イストリアで盛大な“統一市”が開かれ、イストリアやイーラの各地から様々な民族が、それぞれ思惑をもって集まってきます。政治権力を拡大しようとする者、商売で大儲けを目論む者、新たな奴隷や女奴隷を手に入れようという者、結婚相手を探す者など様々ですが、さらに今年は、眠っていた魔法の力が復活し始める兆しを見せており、魔法に敏感な“さすらいびと”たちの間では不安が漂っていました。
イーラのウェストマン諸島のアランソン一家は、“フルマカモメの贈り物”号で“統一市”へ向かっていました。19歳の娘カトラは、初めての“統一市”に胸を躍らせていましたが、到着早々、土地の慣習を知らないために深刻なトラブルを引き起こしてしまいます。大地の声を聴くことができ(そのため金属加工の才を持ったカトラは、若い娘でありながらイーラを代表する刀鍛冶でした)、岩登りが得意なカトラは、町外れにそびえる岩山の頂上まで登ってしまいますが、そこは女人禁制の聖なる峰でした。見つかって兵士に追われたカトラは逃げ延びますが、ごまかすために自慢の長い赤毛を染め、短くしなければなりませんでした。
一方、イストリアの有力貴族ヴィンゴ家の次男サロは、岩山の頂上にたたずんでいるカトラを目撃し、一目で惹かれてしまいます。サロの父であるヴィンゴ家の当主ファヴィオは、傲慢な自信家で武芸に秀でた長男タントを溺愛しており、穏やかで人情味のあるサロはほとんど無視されていました。ファヴィオはギルドへの借金を返済するために、市の武芸大会でタントにぜひとも優勝してもらわねばならず、同時にサロも自分が参加する騎馬競争で上位に入ることが義務付けられていました。またタントは、父の政治的経済的理由から、ティチョ・イシアン卿の娘セレンを妻に迎えることになっていましたが、イストリアの慣習で、結婚するまでヴェールに隠された相手の顔を見ることができません。武芸大会で勝ち進み、決勝に臨んだタントですが、正体不明の対戦相手に接戦の末、敗れてしまいます。それに対して、サロは騎馬競争で奇蹟的に勝利を収めます。諸々のストレスが溜まったタントは、イーラの荒くれた漁民やイストリアの兵士たちといざこざを起こし、巻き込まれた“さすらいびと”の老人を切り殺してしまいます。その老人は、昼間サロが親しくなった相手で、死に際にサロに対してある能力を授けます。それは、周囲にいる人の心が読めるという、便利で呪わしき能力でした。
武芸大会でタントを破ったのは、イーラの若き指導者ラヴン王でした。ラヴン王は、生涯の伴侶を求めるために市へやってきたわけですが、自分たちの娘を花嫁候補として差し出す各地の権力者の思惑に辟易していました。カトラの親友で、高名な船大工フィン・ラーソンの娘ジェナも花嫁候補のひとりでしたが、自分をよく見せるために“さすらいびと”のまじないを買ったせいで、悲惨な目に遭ってしまいます――それも、エルダの世界で魔法が予想以上の力を持ち始めている証拠でした。
そのころ、カトラの父アランは、市で不思議な地図売りに出会い、伝説の宝物が眠るという北の果ての“聖域”への航路を描いたとされる地図を買い取ります。地図売りの正体はヴィレレイで、自分の代わりに“師”の息の根を止めてくれれば宝を渡すという条件でした。アランは、イーラ船団を組んで聖域に向かうようラヴン王に進言しますが、夢物語だと退けられてしまいます。諦めきれないアランは、やもめである船大工のラーソンに花嫁としてカトラを差し出すことを約束し、遠征用の船と資金を揃えようと考えます。
ヴィレレイは“聖域”を脱出するにあたって、全ての魔法を体内に収めている猫ベテと、師の寝室の櫃の中に隠されていた娘ローザを連れていました。ローザは、出会う男すべてを恋と情欲のとりこにしてしまう能力を持っており、ヴィレレイは強力な抑制薬を服用することで、かろうじて衝動を抑えています。たまたまヴィレレイの店を訪れてローザの姿を垣間見たイシアン卿は、一目でローザに魅入られ、ありとあらゆる手段を使ってローザを譲ってもらおうと交渉するのでした。ヴィレレイも根負けして承諾しますが、ローザは姿を消し、次に現れたのはイーラとイストリア両国の貴族や政治家が集うパーティのさなかでした。ローザはラヴン王に接近し、ローザの魔力に囚われたラヴン王は、ローザを花嫁にすると宣言して、パーティに大混乱を引き起こします。
一方、タントは腕ずくでもセレンをわがものにしようと決意してセレンの天幕に夜這いをかけ、侍女を殺してセレンを強姦しようとしますが、魔法のナイフで股間を刺され、局部に再起不能の傷を負ってしまいます。結婚前に男に素顔をさらしたことで恥辱にまみれたセレンは、あてどなく森をさまよっているとき、カトラと出会います。カトラはラーソンとの結婚話に耐え切れず、自分に思いを寄せていた幼馴染のエルノに協力させて、小舟で逃走しようとしているところでした。しかし、カトラは神の岩山へ登ってタブーを犯した罪で捕まり、エルノとセレンは小舟で脱出することになります。カトラは火あぶりに処されることになりますが、兄や従兄弟たちをはじめとするイーラの漁民たちが救出に駆けつけ、大火傷を負いながらも助け出されます(それ以前に、ラーソンはパーティで起きた小競り合いで命を落としていました)。
目の前からローザをさらわれたイシアン卿は、ヴィレレイを手の内に収めると同時に、弁舌と政治力のすべてを尽くしてイーラに対する追跡と復讐を訴え、イストリア全体の世論を対イーラ戦争の方向へと誘導していきます。

こうして、壮大なプロローグというべき第1部が終わり、いよいよ本格的に物語が動き出そうとするわけですが、最初に記したように、10年以上経っても第2部以降の翻訳がなされていません(あまり売れなかったのか、ほかに大人の事情というやつがあるのでしょうか?)。

オススメ度:☆☆☆




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