ゑびす殺し ☆☆☆

(ゑびす殺し / 荒俣 宏 / 徳間文庫 1994)

荒俣さんの第1短篇集。あとがきによると、「帝都物語が大ヒットしたおかげで、短篇小説を発表する場が与えられるようになった」とのこと。たしかに、どれもいわゆる“奇妙な味”の作品なので、作者のネームバリューがなければ、雑誌社や出版社も二の足を踏みそうですものね(^^;
5作品が収められていますが、ほとんどは80年代後半に雑誌に発表されたものだそうです。

「ゑびす殺し」:戦後間もないころ(ちょうど帝銀事件が起きた直後です)、釣り好きの広田刑事と一緒に夜釣りに出かけた語り手は、なんと東京湾で土左衛門を釣り上げてしまいます――しかも、その遺体は、七福神のゑびす(恵比寿)様そのものでした。しかも、遺体の状況から、他殺の線が強くなります。広田刑事は張り切って被害者の身辺調査に乗り出しますが、すると出るわ出るわ、上野近辺を徘徊するボケ老人たち(寿老人に福禄寿、布袋様)、闇市で米を商っている大黒様や、アメリカ兵相手に春をひさいでいる弁天様など、関係者が次々に浮かび上がってきます。そして、最も怪しいのは足が不自由だった恵比寿の介護をしていた福助でしたが――。
そういえば高木彬光さんに「七福神殺人事件」という長篇がありましたが、あちらは本物の七福神は登場せず、ある意味まっとうな本格ミステリでした(^^

「長生譚」:時は文化大革命初期。台湾の国民党と中国本土の共産党との間で熾烈な謀略合戦が繰り広げられていました。相手方を攪乱するためなのか真実なのか、国民党の蒋介石と共産党の毛沢東という両巨頭の健康不安情報が飛び交っています。台北へ潜入した共産党のスパイ魏伯良は、故宮博物院に収蔵された、皇帝の寿命を示すという水晶寿星という宝物に注目しています。問題は、宝物が指し示す「皇帝」が、蒋介石なのか毛沢東なのかということでした。魏は、この宝物の周囲を徘徊する寿老人(笑)を酒で籠絡し、秘密を聞き出そうとしますが、埒があきません。党本部は、寿老人に匹敵する長命の老人、福禄寿(笑)を送り込んできます。水晶寿星を見た福禄寿は寿老人と対決し、ついに真の皇帝の名を叫びます。

「迷龍洞」:香港の半島側、九龍城砦の迷路のようになった内部では、清朝皇帝の末裔、小風鈴が弁当屋の下働きをしながら、誇り高く生きていました。しかし、不気味な密偵が城砦に入り込み、小風鈴に関心を抱いたようです。小風鈴は、犬の姿をしている龍の化身・金翼に守られていましたが、密偵たちが真に狙っていたのは、小風鈴の幼馴染のコック・杜平でした。密偵に追われたふたりは、金翼に導かれて迷路の奥に逃れ、小風鈴はとある小部屋に杜平を匿いますが、帰り道に金翼は命を失ってしまいます。

「蟹工船」:タイトルの通り、小林多喜二へのオマージュ。銀行員の小林は、労働運動の闘士で蟹工船に乗り込むことになる阪西、同じく樺太へ渡ろうとしている太田和といった同窓生とともに、送別の宴を設けます。飲み屋に刑事を手入れを受け、ひどい目に遭った小林ですが、かつて愛した女・タキが“人魚船”で娼婦をしていると聞き、救い出そうとします。しかし……。

「恋愛不能症」:森鴎外の「舞姫」異聞。ドイツに留学している医学生の森林太郎は、生活に困窮した踊り子エリザーベトを助けます。たびたび劇場へエリザーベトの舞を見に行く森ですが、彼の関心は、エリザーベトの身体の個々のパーツにありました。すべてのパーツを鑑賞し尽くしたとき、森の興味は失われてしまいます。澁澤龍彦さんも好きそうなフェティシズム小説ですね。

オススメ度:☆☆☆


ゑびす殺し(電子復刻版) (徳間文庫) - 荒俣宏
ゑびす殺し(電子復刻版) (徳間文庫) - 荒俣宏

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