デリラと宇宙野郎たち ☆☆☆☆

(デリラと宇宙野郎たち / ロバート・A・ハインライン / ハヤカワ文庫SF 1986)

ハインラインの作品集『未来史』の第1巻です。
『未来史』とは、ハインラインが1939年にデビューしてから1960年頃までの初期作品を中心に、一連の共通した時間軸を持つ世界の歴史として各作品を並べ直し、シリーズとしてまとめられたものです。イメージとしては、ラリー・ニーヴンの『ノウンスペース・シリーズ』の原型という感じでしょうか。ひとつひとつの作品は、もちろん独立していますが、いくつかの作品で登場人物が共通していたり、ある作品の出来事が別の作品のストーリーを生み出したり、ある作品の事件や登場人者が別の作品でさりげなく言及されていたり、些細な点でシリーズならではの楽しみが味わえます。
このハヤカワから出ている3巻本は、1967年に出た“決定版”を訳出したものですが、シリーズに入っていた長篇「宇宙の孤児」はオリジナルから除かれており、同じく長篇「メトセラの子ら」はすでにハヤカワ文庫から出ていることから外されています。それにしても、「メトセラの子ら」がシリーズに属しているということは、『ラザルス・ロング』シリーズに出てくる錯綜した無数の時間線のひとつが、この『未来史』の時間線に相当することになるわけですね。
この第1巻には、デーモン・ナイトによる序文のほか、初期の中短篇5作品が収められています。

「生命線」:ハインラインのデビュー短篇。一匹狼の学者ピネロ博士は、独自の理論に基づいて、個々の人間がいつ死ぬか、正確に予告することができると主張します。実際に博士の予告通りに何人もの人が亡くなったため、生命保険業界は大恐慌に陥り、科学アカデミーは、ピネロを詐欺師だとして法廷に訴えます。ピネロは自説を正しさを主張するため、科学アカデミーの各メンバーの死亡予定日を記録して封筒に密封して託します。誰かが死んだら該当の封筒を開封すればよいというわけですが……。

「道路をとめるな」:石油危機によって自動車が一掃された北米大陸では、動く歩道ならぬ『動くハイウェイ』のネットワークが全国に張り巡らされていました。近距離用のスピードの遅いものから、大陸横断用の時速100マイルに及ぶものまで、24時間止まることなく稼働を続けています。ところが、道路の運行をコントロールする技師の間で不穏な空気が高まり、ついにカリフォルニアの組合でストライキが起きます。大混乱が起き、技師長のゲインズは事態を収拾しようと駆けつけますが、道路の裏側では血なまぐさい戦いが起きていました。

「爆発のとき」:エネルギー危機の救世主として開発された原子力発電所は、厳戒態勢の中、運営されています。ヒューマンエラーを防ぐため、原子炉のスタッフ全員が二重三重に厳しく監視され、そのストレスによって脱落する人材が絶えません。軽いノイローゼと診断された科学者ハーパーは、同僚のエリクソンとともに新たなアイソトープを使った核反応実験に取り組み、ついに人類を原発事故の悪夢から解放する手段を発見します。1940年という、マンハッタン計画すら明るみに出ていない段階で、ハインラインは原発の危険性と、事故の被害を防ぐ(事故は必ず起きるという前提で)手段を予言していたわけです。

「月を売った男」:原子力ロケットによる月世界旅行も時間の問題と思われていた矢先、軌道上の衛星で起きた原子炉の爆発事故により、宇宙開発計画は完全に頓挫してしまいました。しかし、子供の頃からの「月へ行きたい」という望みを捨てられないひとりの実業家がいました。彼――D・D・ハリマンは自分が共同経営するコンツェルンの同僚から資金を引きだし、徹底したプロモーションをかけて、月旅行の実現に向けて動き始めます。原子力推進技術のプロ、かつてのロケットパイロット候補といった必須のスタッフも集まり、人類初の有人月世界飛行ロケットの発射準備は整いますが、事情によりハリマンはその乗員となることはできませんでした。ハリマンは、2回目の大型ロケットに乗り組めばいいと、自分を慰めますが――。

「デリラと宇宙野郎たち」:宇宙ステーション建設が突貫作業で進められている軌道上に、ひとりの新任無線技士が着任しますが、責任者タイニイは肝をつぶします。やって来たのは、優秀な技師ではありましたが、若い美女グロリアだったからです。建設基地には、数か月も女性に接していない若い荒くれ男たち数十人がひしめいています。タイニイはすぐにグロリアを送り返そうとしますが、当然ながら猛反対に遭います。しかし、タイニイの苦悩をよそに、グロリアの存在はステーション建設に思わぬ副産物をもたらしたのでした。タイトルの「デリラ」は、もちろん聖書のエピソード「サムソンとデリラ」からでしょう。

引き続き、第2巻「地球の緑の丘」に取り掛かります。

オススメ度:☆☆☆☆


デリラと宇宙野郎たち (ハヤカワ文庫 SF―未来史1) - ロバート・A・ハインライン, 徹, 矢野
デリラと宇宙野郎たち (ハヤカワ文庫 SF―未来史1) - ロバート・A・ハインライン, 徹, 矢野

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