ヨブ ☆☆☆

(ヨブ / ロバート・A・ハインライン / ハヤカワ文庫SF 1995)

ハインライン晩年の長篇SFです。
なんでも、聖書の「ヨブ記」をハインライン風にアレンジしてドタバタコメディにしたものだそうですが、正直、聖書(というかキリスト教全般)には疎いため、「ヨブ記」にどんなことが書いてあるのかすらわかりません。なんせ、タイトルを見たとき「ヨブって、クジラに飲まれた人だっけ?」と真剣に思ってしまったほどです(それは「ヨナ」です。しかもクジラじゃなく「巨大な魚」だし)。
でも、元ネタを知らなくても、十分に楽しめる作品でした。

主人公アレクサンダー(アレック)・ハーゲンシャイマーは、カンザスシティにあるガチガチのキリスト教原理主義教団「良識教会連合」の事務方の幹部をしており(つまり、牧師として芽が出なかったために、組織作りとカネ集めに手腕を発揮しているわけです)、「十戒」が服を着て歩いているような厳格な妻アビゲイルと、つまらない結婚生活を送っている中年男性です。彼は休暇を取り、ひとりで南太平洋のクルージングを楽しんでいました。物語が始まると間もなくわかってきますが、アレックの暮らしている1994年現在の世界は、巨大飛行船で移動し、ドイツには皇帝がいるという、こちらの現実世界とは異なる世界です。
旅仲間と賭けをした勢いで、火渡りの儀式を実体験する羽目になったアレックは、熱い火床をどうにか渡り終え、気絶してしまいます。ところが、気付いて船に戻ってみると、乗っていたはずの機械船“コンゲ・クヌート”号は蒸気船に変わっており、乗員や船客は彼のことを「グレアムさん」と呼びます。当惑したまま乗船したアレックは、火渡りのショックで自分の気が狂ったか、パラレルワールドに迷い込んだかどちらかだと判断します。彼が入れ替わったアレック・グレアムという人物は、やはりアメリカ人でしたが、どこか後ろ暗い商売に手を染めているようで、貸金庫には100万ドルの現金を隠し持ち、寄港地で怪しげな3人組に付きまとわれたりします。しかし、いいこと(?)もあって、グレアムは客室係のチャーミングなデンマーク人マルガレーテと恋仲になっており、男女の仲に関して厳格な教えを守っている(はずの)アレックも、周囲の開放的な風俗習慣(なんせ、この世界ではプールではみな全裸で泳ぐのです)に影響されて、ついに据え膳を食ってしまうことに。
しかし、幸せも束の間、船が氷山に衝突したショックでふたりは海に放り出され、着の身着のまま漂流することになってしまいます。メキシコ海軍の飛行機に救出されますが、そこはまた別の世界になっていました。語学に堪能なマルガレーテのおかげで(彼女の本業は語学教師で、英語・フランス語・イタリア語・スペイン語がペラペラという、こういうストーリー向けにあつらえたような(笑)設定です)、ふたりは難破したアメリカ人夫婦ということで受け入れてもらえますが、こちらの世界(最初はアレックの話を疑っていたマルガレーテも、自分の世界では見たこともない“空を飛ぶ機械”に乗った以上、信じざるを得ません)ではカネがすべてで、救出費用を払うために、ふたりはメキシコ人のレストランで半年以上働くしかありませんでした(アレックは皿洗い、マルガレーテはバイリンガルのウエイトレスとして)。ですが、ようやく負債を返し終わったのも束の間、大地震に襲われ、またも次の世界へ移動してしまいます。
こうして、ふたりは何者かの手によって、微妙に違う世界を次々に移動しながら、北へ進み、国境を越えてアメリカ合衆国に入り込みます。やがて、アレックにも移動の法則がわかってきます。ふたりが直接身に着けていたものしか一緒に移動せず(一度など、川で水浴した直後にそれが起こり、ふたりは素っ裸でヒッチハイクしなければなりませんでした――マルガレーテのおかげで(笑)、すぐにトラックが止まってくれましたが)、おカネを貯めても次の世界では通用しません。救いは、必ずアレックとマルガレーテがコンビで移動させられることですが、これを仕掛けている何者かが気まぐれを起こせば、ふたりは永久に会えなくなってしまう恐れもありました。
ふたりは名目上も事実上(笑)も夫婦として行動していましたが、アレックは悩んでいました。彼にはアビゲイルという妻があり、彼の宗派では姦通も離婚も禁じられています。おまけに、マルガレーテは北欧神話の神オーディンを信じている“異教徒”でした。世紀末が迫り、最後の審判も近い今、マルガレーテを改宗させない限り、審判の日にふたりは天国と地獄へ永久の別れを味わわなければなりません(アレックのようなキリスト教原理主義者とは、聖書に書いてあることはすべて事実だと信じていて、進化論のような邪悪な教えを排斥しようとしている人たちです)。しかし、この点に関しては、マルガレーテは頑固でした。それでも、アレックの説得に、マルガレーテも徐々に態度を軟化させていきます。
やがて、荒野で説教するキリスト教のイベントに出会ったふたりは参加しますが、その最中に“最後の喇叭”が響き渡り、アレックは天国へ運ばれます。小役人そのもの天使たちのお役所仕事に翻弄されながら、アレックはマルガレーテを探しますが、彼女は見つかりません。ついに覚悟を決めたアレックは、自ら地獄へ赴いて、マルガレーテを探すことにします。そこではサタン(ルシファー)が待ち受けているはずですが……。

後半の「天国・地獄めぐり」はありがちですが、ラストはいかにもハインライン風です。

オススメ度:☆☆☆


ヨブ (ハヤカワ文庫SF) - ロバート・A. ハインライン, Heinlein,Robert A., 伯好, 斉藤
ヨブ (ハヤカワ文庫SF) - ロバート・A. ハインライン, Heinlein,Robert A., 伯好, 斉藤

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