冬長のまつり ☆☆☆

(冬長のまつり / エリザベス・ハンド / ハヤカワ文庫SF 1994)

作者ハンドの第一長篇だそうです。これまでハンド作品は、「ミレニアム」「X-ファイル」などTVシリーズのノヴェライゼーションを読んでいましたが、ノヴェライズという制約があったせいか、あまり出来がいいとは思えませんでした。でも、処女長篇のこれは、気合が違います。
裏表紙の紹介文によると、ジャンルは「テクノゴシック」だそうです(わかったような、わからないような・・・(^^;)。さらに巻末の解説を読むと、「サイバーパンクの影響を受けた、ゴシック風味のファンタジックなSF」らしいですが、まあ確かにその通り。舞台も世界観も異なりますが、イアン・マクドナルドの「黎明の王 白昼の女王」(ハヤカワ文庫FT)と雰囲気がよく似ています。
舞台は24世紀、核や生物兵器による世界大戦によって文明は崩壊し、かつてのアメリカ東海岸では、人々は点在するメガロポリスの廃墟で、中世的な風俗と高度機械文明やバイオテクノロジーの残滓が混じり合った、歪んだ社会を築いています。都市の外に広がる荒野や森には、放射能による突然変異や遺伝子改変で生まれた野蛮な亜人種(“腐れ”と呼ばれるミュータントや、犬と人の遺伝子が混じった“土狗人”)や、致命的な吸血植物、有毒昆虫などが跋扈しています。また、局地戦闘は続いているらしく、沖天政府が支配するこの地は、敵対するバルカシュ連邦から定期的にウイルス爆撃(致死的なウイルスを薔薇色の雨に交えてばらまくもの。ウイルスはすぐに死滅するため、雨を浴びなければ安全です)を受けています。
そんな世界の中、物語はふたりの少年少女の目を通して、交互に描かれます。奇数章の主人公は、ドラッグと脳手術によって、他人の精神に入り込めるエンパス(共感能力者というより、サイコダイバーのイメージに近いでしょうか)にされた17歳のウェンディ。彼女は、沖天政府の人間工学研究所(HEL)でトラウマを負った人々の治療に携わっていましたが、育ての親とも言えるハロウ博士の精神に入り込んだ際、博士の過去の記憶の中に神秘的な少年の姿を見ます。“木の上の男の子”と名付けた少年は、それからウェンディの精神に宿り、そのせいか、ウェンディの治療を受けた患者の一部が、ハロウ博士も含めて死を迎えてしまいます。その後、沖天政府から、かつての大戦の英雄タストアンニンがHELの所長として送り込まれてきます。タストアンニンは、ウェンディの能力を武器として利用することを考えますが、それを察知したハロウ博士の助手ジャスティスの手引きで、ウェンディはHELを脱出し、“木の都”へ逃れます。ジャスティスの伝手で、旅回りの劇団トビー一座に身を隠したウェンディは、性別を偽ってエイダン(ハロウ博士の亡兄の名前)と名乗り、役者稼業を始めます(ウェンディの正体を知っているのは、ジャスティスと、劇団の花形スター、知性化されたチンパンジーのスカーレット嬢だけでした)。好評を博した劇団は、来る冬長のまつりにシェイクスピア劇を上演することになります。
一方、偶数章の主人公は、“木の都”の廓(つまり売春宿)で働く美少年、17歳のラファエルです。ラファエルは、パトロンの学芸官ローランドに引き取られて、博物館へ身を寄せますが、ローランドの寵を失い、助手の少女フランカを護身用の生物武器で誤って死なせてしまったため、森へ逃げ出さざるを得なくなります。ローランドを追って赴いた“蝶の舞踏会”では、“腐れ”と“土狗人”の大群に襲われて多数の死傷者が出る中、ようやく逃れますが、今度は森の中でHELを脱出してきたシルバーソーン博士(ハロウ博士の同僚)と出会います。シルバーソーンはウイルス爆弾にやられて死を待つばかりの状態でしたが、配下の“腐れ”たちとともに、ラファエルを“呑まれた大聖堂”の廃墟に連れて行きます。そこでは、狂気に陥ったタストアンニンが“腐れ”や“土狗人”らを従わせ、大戦時代の武器庫を発見して、自分を裏切った沖天政府に復讐しようとしていました。タストアンニンは、武器として選んだウェンディを捕えるべく、配下を“木の都”へ送り込みます。
こうして、物語が進むにつれてウェンディとラファエルの隠された関係が明かされ、クライマックスのふたりの出会いに向かって、ストーリーは雪崩を打つように流れて行きます。

しかし、物語は終わりではなく、四部作にシリーズ化されているようです。ただし、続篇が邦訳される気配はありません。まあ、たしかに一般受けする内容ではないですから・・・。

オススメ度:☆☆☆


冬長のまつり (ハヤカワ文庫SF)
冬長のまつり (ハヤカワ文庫SF)

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