幽霊が多すぎる ☆☆☆☆☆

<幽霊が多すぎる / ポール・ギャリコ / 創元推理文庫 2000)

ずっと名前だけは知っていたポール・ギャリコ、これが初読みです(つまり、「ジェニイ」も「トマシーノ」も「マチルダ」も「スクラッフィ」もまだ読んでいない)。とはいえ、これは解説によるとギャリコには珍しい本格ミステリとのこと。タイトルはホラーっぽいですが、創元さんが怪奇・ファンタジーではなくミステリのジャンルで出していることで、真相が超常現象ではないことはバレバレ――と思いましたが、ハヤカワさんの「ジャクソンヴィルの闇」という例もあるので(バリバリのホラーなのにミステリ文庫から出ている)、油断はできません(笑)。
※ここまで書いて、念のため蔵書データベースをチェックしてみたら、学生時代にエラリイ・クイーン編のアンソロジー「犯罪の中のレディたち」に収録された短篇「単独取材」を読んでいました(^^;

英国ノーフォークの由緒ある屋敷、パラダイン男爵が代々住まうパラダイン館には、16世紀より様々な怪異が言い伝えられてきました。先代が亡くなり、相続税を払うために、当主パラダイン卿は屋敷をカントリークラブとして会員に解放しました。ところが、初夏のある晩、ポルターガイストが現れ、以降、屋敷には言い伝えにあるような怪異が次々と起こります。部屋が荒らされ、誰もいない音楽室でハープの音が鳴り響き、悲運のうちに死んだ16世紀の尼僧の亡霊がさまよい歩きます。晩餐の席では重い椅子が勝手に動き、原因もなくロウソクが消えて、スープ皿にウサギの惨死体が出現します。さらに、滞在客のひとりは夜中に冷たい手で首を絞められそうになります。
隣り合った地所に住むサー・リチャードは、怪異の謎を解くために(そして、自分の愛する女性を幽霊の悪意から守るために)、旧知のゴースト・ハンター、アレグザンダー・ヒーローを呼び寄せ、調査を依頼します。大仰な、人を食ったような名前ですが、れっきとしたフランス系の姓だと説明されています。
パラダイン館を訪れたヒーローは、早速、地元の牧師が行う悪魔祓いの儀式に遭遇しますが、もちろん(笑)儀式は大失敗に終わります。現代のゴースト・ハンターらしく、ヒーローが真っ先に目を付けたのは、屋敷の人々の複雑な人間関係でした。
当主のパラダイン男爵と夫人には、ふたりの子供、マークとベスがいます(ふたりとも成人しています)。他に、先代の妹で実質的に屋敷を取り仕切っているオールドミスのイザベル、ひねくれて底意地の悪い従兄弟の青年フレッド。加えて、自分の屋敷を改築中のリチャードと、ベスの友人で活動的なアメリカ女性スーザンもパラダイン館に滞在しています。ヒーローの見たところ、マークはスーザンに、ベスはリチャードに首っ丈なのに、当のリチャードとスーザンが恋仲のようでした。
屋敷で休暇を過ごしているカントリークラブの会員も、多士済々です。名誉欲と自己保身の塊りのような下衆野郎のカーター下院議員と妻子(さえない娘ノーリーンは12歳で、ポルターガイストにつき物の“思春期で精神的に不安定な少年少女”というカテゴリーに見事にはまりこみます)、“力こそ正義なり”という言葉が服を着て歩いているようなウィルスン陸軍少佐と妻のヴィヴィアン、生半可な知識をひけらかす善良な(笑)オカルトマニアのジェリコット、自尊心の塊りのような原子物理学者ポールスン、世知に長けたテイラー未亡人、物静かな技師エリスンといった面々。
ヒーローは、さっそくスーザンに心惹かれ、夫に不満を持つウィルスン夫人からあからさまにモーションをかけられます。女性に弱く、火遊びもいとわないヒーローは(まあ、仕方がないです、“ヒーロー”なんですから)、それが自分の弱点だとわかっていながら、克服できないでいます。わかっちゃいるけどやめられない――といったところでしょうか。
関係者の話を聞き、実際にポルターガイストを体験したヒーローは、謎めいた言葉をつぶやきます――「この屋敷には、幽霊が多すぎる」
事態は自分ひとりの手に余ると感じたヒーローは、有能な助手――継妹のメグを呼び寄せます。彼女こそ、待ってましたという絵に書いたようなヒロインでした(笑)。主人公が男だと知って、どうせゴーストハンターを出すなら、ルナ(J・D・ケルーシュの「不死の怪物」の主人公、美少女ゴーストハンター)みたいな方がいいな、と不埒な考えを抱いていましたが、メグが出てきて不満は雲散霧消。親が再婚同士なのでヒーローとは血が繋がっていない妹ですが、パラダイン家もひれ伏す名家ヘネ伯爵家の娘にして、才色兼備で腕利きの写真家――心霊現象の探求に有能なカメラマンは不可欠ですから、適切な人選といえます。
メグの協力を得て、幽霊の謎を解こうとするヒーローですが・・・。
結論は、「幽霊よりも怖いのは生身の人間」ということになるわけですが、それでもギャリコは訴えかけてきます――でも、人間だって、捨てたものじゃない。その証拠に、ミステリなのに登場人物はひとりも死にません(これはネタバレにはならんでしょう)。
この作品は単発もののようですが、ヒーローとメグの揺れ動く微妙な感情など、もっともっと続きを読みたいという気にさせられてしまいます。

オススメ度:☆☆☆☆☆


幽霊が多すぎる (創元推理文庫)
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