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(20世紀SF〈6〉1990年代―遺伝子戦争 / 中村 融・山岸 真:編 / 河出文庫 2001) 20世紀の英語圏短篇SFの精髄を集めたアンソロジー、いよいよ最終巻、90年代です。 80年代に続き、90年代も、特に前半は読書量が(相対的に)少なかったため、今なんとかそれを取り返そうとしているところです(笑)。なので、この巻に収録されている作家も11人中6人が初読みでした。名前も知らなかった人が4人。 では、収録作品を順に紹介していきましょう。 「軍用機」(スティーヴン・バクスター):作者は英国ハードSFの第一人者。20世紀後半、米ソの冷戦が“熱い戦争”にまで展開してしまった歴史が、世紀末を迎えるまでを描きます。月面に到達したアポロ11号がソビエトの攻撃で破壊されたことから、スペースシャトル計画が大幅に前倒しされ、軍事用に転用したシャトルは宇宙からソ連領土を核攻撃し――。 「爬虫類のごとく……」(ロバート・J・ソウヤー):過去の人々に人格を投影して重ね合わせるという技術が開発されましたが、一方通行で元に戻せないという(文字通り)致命的な欠陥がありました。しかし、平均寿命が延びまくった未来では、安楽死のために活用され、死刑執行にも用いられるようになりました。快楽のために女性を殺し続けた猟奇殺人鬼コーエンは死刑を宣告されますが、人間ではなく中生代のティラノサウルスに人格投影するよう希望し、かなえられます。ソウヤーには珍しく、ぞくりとするようなラストです。 「マジンラ世紀末最終大決戦」(アレン・スティール):“マジンラ”とは、マジンガーZか鋼鉄ジーグもかくやという巨大ロボット。日本のメーカーが軍事用に開発したロボットですが、実戦では使い物にならず、アメリカのスタントショーの興業主に売り込みます。これが最初は大当たりしますが、次第に飽きられ、リース料の支払いも滞る始末。業を煮やしたメーカーは、刺客として第2号のロボットを送り込んできます。ついに火蓋を切る大決戦――勝負の行方は!? 巨大ロボットアニメおたくのアメリカ人が書いた、怪作。 「進化」(ナンシー・クレス):薬剤耐性菌が蔓延した近未来、有効な抗生物質はエンドジンという1種類だけになっていました。院内感染を怖れる人々は病院を忌み嫌い、病院から戻ってきた人は共同体から弾き出され、最悪の場合は「感染を防ぐため」という大義名分のもと、殺されてしまいます。主人公ベティは、病院に関わりあわないように生活していましたが、ひとり息子ショーンが病院を破壊しようとする過激派に加わったという噂を聞いて、かつての恋人ランディ医師を訪れますが、ランディはエンドジンも効かない不治の感染症を発症していました。人類の未来は、ランディが口にした新療法にかかっているのですが・・・。 「日の下を歩いて」(ジェフリー・A・ランディス):90年代SFには、40・50年代の名作SFを現代的な視点から再構築したものが少なくありません。この作品は、ジョン・W・キャンベルの名作「月は地獄だ!」の再話といえます。宇宙船のトラブルで月面に不時着したパトリシアは、救援船がやって来るまでの1ヶ月を、ただひとり月面で生き延びなければならなくなります。水と食糧はありますが、問題はエネルギー。太陽電池を働かせればエネルギー補給はできますが、2週間も続く月の夜が迫っていました。パトリシアにできることは、ただひとつでした・・・。 「しあわせの理由」(グレッグ・イーガン):ハヤカワ文庫SFから出ている短篇集のタイトルにもなっている作品。主人公マークは12歳のとき、脳腫瘍に侵されます。ところが、腫瘍の刺激でエンドルフィン類似の脳内麻薬ロイエンケファリンが大量分泌されたため、マークは常に幸福で怖い物知らずという状態に。最新の遺伝子治療で腫瘍は消滅したものの、副作用でロイエンケファリンの分泌が永久的に止まってしまい、今度はまったく幸せを感じられない重度の鬱状態に陥ってしまいます。“しあわせの理由”を失い、絶望的な生を過ごすばかりのマークの前に、まったく新しい神経療法を開発したという女医が現れますが――。 「真夜中をダウンロード」(ウィリアム・ブラウニング・スペンサー):現実とネット内のバーチャル・リアリティが入り混じった情報ハイウェイを舞台にしたバリバリのサイバーパンクSF。ネット上で絶大な人気を誇るバーチャル・セックス番組のイメージが暴走し、ネットは大混乱に陥ります。ネットのゴミ掃除(要するにデバッグ?)を生業とするマーティンは、修復のため部下のブルームをバーチャル空間に送り込みますが、ブルームは消息を絶ってしまいます。自らもバーチャル世界へ潜行したマーティンは、予想以上の大問題に首を突っ込んでしまったことに気付きますが・・・。 「平ら山を越えて」(テリー・ビッスン):地殻の大変動で、成層圏に達するほどの大山脈に分断されてしまったアメリカ大陸。東と西を結ぶのは、坂道と昇降機で山越えをするトラック輸送隊のみ。もちろん頂上近くは空気がないため、命がけの道行きです。そんなトラック運転手のひとりである語り手は、ふもとでヒッチハイクの少年を拾います。昔の自分も同じようにヒッチハイクで山越えしたことを思い出したからでしたが――。ちょっと心があったかくなるロード・ノベル。 「ケンタウルスの死」(ダン・シモンズ):片田舎の小学校教師をしているケナンは、自分が創作した冒険ファンタジーを、子供たちに定期的に話して聞かせていました。その物語とは、ネコから進化した少女とサルの血を引く男、そしてケンタウルスの青年(なんと名前はロール!)が、惑星ガーデンの“大叢海”を押し渡り、怪物シュライク(!)と戦って、ウェブ宇宙へ通じるゲートを目指すというもの。「ハイペリオン」4部作を読んだ方には明らかですが、ここで語られる物語は「ハイペリオン」の原型となったものだそうです。学期末の日に語られるクライマックスを、子供たちは楽しみにしていましたが・・・。ラストはなんとも考えさせられる、やりきれないものです。 「キリマンジャロへ」(イアン・マクドナルド):新感覚の妖精ファンタジー「黎明の王 白昼の女王」の作者マクドナルドの作品。どことも知れぬ宇宙の果てから、地球へ落ちてくる“生物パック”と呼ばれる謎の物体。それが落ちた地域は生態系がまったく変わってしまい、この世のものとも思えない奇怪な植物群が繁茂する魔境と化してしまいます。キリマンジャロのふもとのジャングルもそんな地帯のひとつですが、若き女性科学者、通称“ムーン”は、研究のためナイロビを訪れます。ところが、地元の名士が集まるパーティで恋仲になった科学者ラングリシュが魔境のジャングルに消えたことを知り、ムーンもジャングルの奥地へ向かいます。彼女がそこで見たものは――。 「遺伝子戦争」(ポール・J・マコーリイ):遺伝子工学の恐るべき進歩と、それがもたらす人類社会の変貌を、(描きこめば大長編のシリーズにもなるのに)少年エヴァンの人生を通してわずか14ページに凝縮した作品。 オススメ度:☆☆☆☆
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